限りなく純粋に近いシリコン
ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、IGBTなどの半導体素子は純度99.999999999%のシリコンから作られています。
シリコンとは珪素の事で(元素記号はSi)、土、岩、植物などさまざまな物に含まれていて多量に存在する物質です。ガラスの主成分でもあります。

シリコンの原子番号は14で、つまり電子を14個持っています。
原子核の廻りを回る電子の軌道はいくつかに分かれていて、内側からK殻、L殻、M殻・・・と呼ばれています。そして、それぞれの軌道に入れる電子の数は決まっていて、K殻は2個、L殻は8個、M殻は18個となっています。
更にL殻は2軌道、M殻は3軌道と細かい軌道に分かれていて、内側からs軌道、p軌道、d軌道と呼ばれ、それぞれに入れる電子の数はs軌道2個、p軌道6個、d軌道10個となっています。
さて、シリコンの場合はどうなっているかと言うと、電子は内側の軌道から埋まっていきますので、K殻に2個、L殻に8個と入ってこれで10個。
残りの4個がM殻に入るわけですが、そのうちの2個がs軌道に入って、余った2個がp軌道に入ります。
M殻s軌道まではすべて満席となりましたが、M殻p軌道にはまだ空席が残っている状態です。



原子はこの様に一番外側の軌道に空席があると不安定でその状態を嫌う性質があります。
そこで隣り合った原子どうしで外側の電子を共有し合う事によって満席にしようとするのです。
シリコンではM殻に4個の電子があるのでこれを共有し合う事によって外側の電子を8個とし、それをs軌道に2個、p軌道に6個入れて最外部の軌道を満席にしています。
これでシリコンは落ち着く事が出来たのですが、このままでは電気を通しません。

p形、n形
落ち着き払ってしまったシリコンに仕事をさせるには刺激を与えてやる必要があります。その刺激とは熱や光を当てる事で、それにより結束していた電子がその呪縛から離れて動き回り、よって電気を通す事が出来るようになるのですが、その方法ですとシリコンを電子部品として使うたびに熱や光を当ててやらなければならない事になり不便です。
そこで、何もしなくても電子が自由に動き回れ、かつ特定の性質を持たせるために高純度のものにわざわざ不純物を混ぜます。その際に用いられる不純物にはガリウム(Ga)や砒素(P)等です。
ガリウムは一番外側の軌道の電子が3個の3価の原子です。これをシリコンに混ぜると外側の電子が4個で安定していたところに3個の物が混ざるので電子が不足して空席(ホール)が出来てしまいます。このホールがある原子は落ち着きたくて隣の原子の電子を奪ってしまいます。すると今度は奪われたところがホールとなりまた他所の電子を奪う。これによりホールがあちこちをふらふらと動き回る事になります。
この様に電子が足りず+の性質を持つものがp形半導体です。
一方、砒素を混ぜたものは、砒素が5価の原子の為電子が1個余ってしまいます。この余った電子は行き場を探してあちこちをふらふらと動き回る自由電子となります。
この様に電子が余っている状態のものは−の性質を持ち、n形半導体と呼ばれます。
混ぜられる不純物の数はシリコン原子1000個に対して1個ぐらいです。


pn接合
不純物を混ぜる事で+、−それぞれの性質を持つ半導体を作る事が出来ました。この2つを合わせると電子部品の完成です。
p形半導体とn形半導体をくっ付けると当然その接合面ではp形のホールがn形へ、n形の電子がp形へと入り込んでいきます。
この動きがある程度進みますと、p形の接合面ではホール(+)が無くなって−の性質を帯びて来る為n形の電子(−)は反発して入り込めなくなり、同様にn形の接合面では電子が抜けて+の性質を帯びてくる為p形のホールが入り込めない状態となります。
この接合面付近の電子とホールが移動できない部分を空乏層といい、これでp形、空乏層、n形の3個の層からなる電子部品が出来あがりました。


電子部品
ダイオード
ダイオードはp形とn形の半導体をつなげたもので、電流の整流作用、つまり電流を一方向にだけ流すという性質を持っています。
電流を流すのはp形側に+、n形側に−をつないだ場合です。
この様につなぐと、n形領域の電子は流れてきた電子に反発しその勢いで空乏層を突き抜けp形領域を通って流れて行きます。
逆にp形側に−、n形側に+をつなぐとp形領域内のホールは電源の−にひきつけられ、n形領域内の電子は電源のプラスにひきつけられ、となり結果的には空乏層が広がるだけで電流は流れません。
この性質を利用したのが交流を直流に変えるダイオード整流器です。


トランジスタ
トランジスタはp形をn形でサンドイッチしたnpn形とその逆のpnp形があリ、真中の部分に電流を流す事でトランジスタ全体に電流が流れるというスイッチの役割をします。
トランジスタでは中央の部分をベース(B)、それぞれの端の部分をエミッタ(E)、コレクタ(C)と言います。
トランジスタに電流が流れる仕組みをnpn形で考えてみます。
エミッタに電池の−、コレクタに+をつなぐと、電池の−から流れてきた電子はエミッタ→ベースでは、ダイオードの電流が流れる理由と同じで、順方向になるので流れることが出来ます。
しかし、ベース→コレクタでは逆方向になってしまって、電子は流れて行きません。
例えて言うならエミッタ、ベースに電子がいっぱいになってしまって身動きが取れず、ベース、コレクタ間の坂道が登れない様な状態です。
そこでベースに逃げ道を作ってやり、エミッタ→ベースでどんどん電子が流れる様にしてやります。
すると勢いづいた多くの電子が極薄で作られているベースを突き抜けてコレクタへと流れトランジスタ全体に電流が流れるのです。
つまり、ベースから逃げ道を作った事で隙間が出来て電子が動き回れる様になり、勢いづいて坂を登れる様になった、という感じです。


この様に電子素子に電流を流す役目をする電子とホールの事をキャリアと呼びます。

サイリスタ
サイリスタはp形とn形2個づつを順に並べたもので、ダイオードと同じように整流作用とトランジスタの様なスイッチ作用を持っています。
サイリスタも3本の足を持っていてアノード(A)、カソード(K)、ゲート(G)と呼ばれています。
サイリスタはゲートに電流を流す事によって順方向、アノードからカソードへと電流が流れます。しかし、一度電流が流れ始める(ターンオンする)とゲート電流を切っても電流を止める(ターンオフする)ことはできません。
サイリスタが電流を流す仕組みは、
まずアノード側に電池の+をつなぎます。するとp1からn1へ、p2からn2へは順方向なのでそのままで電流が流れます。よってn1からp1への逆方向となる部分に電気が流れれば良いわけです。
そこで、p1・n1・p2で作られるpnpトランジスタと、n1・p2・n2で作られるnpnトランジスタの2つに分けて考えます。
するとn1までは電流が流れているのですから、下のnpnトランジスタに電気が流れればサイリスタ全体に電流が流れることになります。 このnpnトランジスタに電流を流すにはベースとなるゲートに電流を流せば良い、という訳です。
では、ターンオンしているサイリスタのゲート電流を切るとどうなるでしょう。
サイリスタ全体に電流が流れているという事は、上のpnpトランジスタにも電流が流れていますのでp2にも電流が来ているという事で、つまり自力で下のnpnトランジスタのベース電流を流しているということになります。
よって、サイリスタは一度ターンオンするとゲート電流を切ってもターンオフできないのです。
なお、アノード側に−をつなぐと今まで順方向だったp1n1とp2n2が逆方向になりn1p2だけが順方向になるのでゲート電流を流してもサイリスタに電流は流れません。

GTOサイリスタ
一度ターンオンしたサイリスタをターンオフする為には、サイリスタに流れる電流をターンオンが維持できうる以下に小さくするか、逆方向に電圧をかけてやらなければなりません。
しかし、その為には複雑で大掛かりな回路が必要となって大変です。
そこで、ゲートの電流でターンオン、ターンオフの操作を可能にした物がゲートターンオフサイリスタ(Gate Turn Off Thyristor )です。
その構造は普通のサイリスタとほぼ変わりませんが、カソード側のN形半導体がゲートより送り込まれるOFFの為のホールに引き寄せられら易い様にいくつもの細かい島状に別れていて1枚の電極でそれらが結ばれている、という点が違っています。
ONする時やON状態を保つ性質は同じですが、OFFする時にはゲートにONの時とは逆の電流を流してやります。
ただし、OFFの為に流す電流はサイリスタ全体に流れる主電流の1/3〜1/5と大きな物の上、制御回路が複雑になるという欠点がありました。
その為、インバータ制御の初期の頃には高電圧高電流に耐えられるトランジスタが無かったのでGTOサイリスタが盛んに使われていましたが、より高周波かつ大容量のIGBTが開発されてからは次第に使われなくなりました。

MOSFET

電子素子にはMOSFET[電解効果トランジスタ(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)]と呼ばれているものがあります。
トランジスタには電子とホールの2つがキャリアとして働くものと、どちらか1つが働くものがあり、前者をバイポーラ形、後者をユニポーラ形と呼びます。
MOSFETはユニポーラ形です。
構造は図の通りでソース(S)、ゲート(G)、ドレイン(D)の3つの端子がありますが、ゲートは直接半導体素子につながっているのではなく、酸化膜(酸化珪素、SiO2)の上につけられた金属電極につながっています。
この様に上から金属電極(Metal)、酸化膜(Oxide)、半導体(Semiconductor)という構造になっている為MOSとなります。
MOSFETに電気を通すにはゲートに電池の+をつなぎます。
すると酸化膜の下のP形の部分ではホールが反発して下がり、自由電子が集まってきてN形の性質を持つ部分が形成されます。この様な現象を電解効果(Field Effect)といい、それによるトランジスタ(Transistor)なのでMOSFETなのです。
新たに出来たN形部分はNチャンネルと呼ばれ、その厚みはゲートに加えられた電圧に比例します。そしてソースとドレインがN形チャンネルで結ばれて1つのN形となり、通電するのです。
よって、MOSFETに流れる電流の大きさはゲートに加えられる電圧によって変わります。

IGBT
トランジスタのバイポーラ形には、ベース電流で作動するものと、ゲート電圧で作動するものがあります。
前者のベース電流駆動型はいわゆる普通のトランジスタです。そしてゲート電圧駆動型なのがIGBTです。
IGBTの構造はMOSFETのドレイン部分にp形半導体が追加された形となり、それにより半導体のpn結合を持った通電に方向性有るゲート電圧で作動するトランジスタとなりました。接続されている電極の名称はエミッタ、コレクタです。
ゲートがMOSFETと同じく酸化膜で絶縁されているので、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Inerted Gate Bipolar Transister)と呼ばれます。
p形半導体の追加によりキャリアのやり取り量が増え、MOSFETよりも低い電圧で制御でき、また、ON、OFFの切り換えもGTOサイリスタの様に制御電流の逆転を必要とせず、ゲート電圧のON、OFFだけなのでより高速で行える様になり、より高周波の交流を作れる様になりました。
よって、作られる電流波形がより多くのパルスで構成され、GTOサイリスタを使った初期の電車の様な独特の発振音は無くなりました。
現在、鉄道車両制御における主流はIGBTです。

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