整流器
エジソンの直流電化方式がより便利なテスラの発明した交流発電機や交流モーターを利用した交流電化方式に取って代わって以来、発電される電気はそのほとんどが交流電気となりました。
しかし、交流電気は送電や電圧の変換には好都合なのですが、回転速度や回転方向が変わるモーターに使用するには少々不都合でした。
そこで制御の簡単な直流モーターで使用出来る様に、またコンピューターや多くの電子機器が直流電気をもってしてその性能を発揮する事からも、交流を直流に変換する必要があります。 それを行っているのが整流器です。
交流を直流に直す方法としては交流モーターで直流発電機を動かすという電動発電機方式もありますが半導体素子が開発されてからはあまり使われません。
電気を一方向にしか通さないもの
交流から直流を取り出すものとしては、古くには真空管がありました。
これは真空のガラス管の中の電極を加熱すると一方向にしか電子が飛ばないという性質を利用したもので、この真空管によってラジオやテレビといった物が一般に広く普及しました。
真空管には多くの種類があり、ニ極性で整流作用をする物がダイオードと呼ばれていました。もちろん現在のダイオードとは全くの別物です。
その他にも増幅作用をする物などがあり、黎明期のコンピューターも真空管で作られましたが、真空管は寿命が短いので作動している時間より修理している時間のほうが多かったそうです。
真空管は微弱電気にしか使えなかった為、大電力で使用されたのが水銀整流器です。
これは水銀を満たした容器内の電極間で真空管と同じ様に一方にしか電子が飛ばない性質を利用した物で、こちらは電気機関車に使用されました。
水銀整流器はそのものが大きく、また、水銀という危険物を使用していたため大容量半導体素子が開発されると使用されなくなりました。
ちなみに鉄道車両で使用された危険物にはPCB(ポリ塩化ビフィニール)などがあります。
これは変圧器の絶縁物質に使われていた物で、新幹線で故障した変圧器からPCBが洩れ周辺にばら撒いてしまった、という事故もありました。
これら物理的整流器に代わって使われ出したのがセレンです。
セレンはこれ自体が半導体(電気を一方向にしか通さない性質)で他の金属と組み合わせる事で整流器として使用できましたが、あまり高い電圧では逆からの電流に負けてしまうという欠点がありました。
セレンの自然な半導体に対して、人工的に作られたのがシリコンを利用したダイオードです。
ダイオードも始は微弱な電気にしか使えませんでしたが、改良が加えられた結果、大容量に耐えられるものとなっていき、電車電気機関車の多くに使用されるようになりました。
ダイオードを使った整流器
ダイオードは単純に順方向の電気は通しますが逆方向の電気は通しません。
ですからダイオード一個では交流の半分の電気しか使えません。
そこでサイリスタ同様4個のダイオードでブリッジを作ります。
これによって交流を直流に変える事が出来ました。
しかし、それだけでは−方向の位相をひっくり返しただけででこぼこの直流です。
これを脈流と言います。
平滑回路
ダイオードブリッジやサイリスタブリッジを抜けただけの脈流は直流とは言うものの極端な交流とも言えるような代物です。
このままでは安定した直流を必要とする物には少々不都合なのでなるべくきれいな直流になるようにするための回路を設けます。
これを平滑回路と言います。
平滑回路は電気を蓄える性質を持つ素子を組みこむ事で作られます。
コンデンサ(condenser)
コンデンサは誘電体という紙やプラスチックや金属酸化膜を2枚の金属板で挟んだ物です。
通電するとそれぞれの金属板に+電荷と−電荷が集まり、電源を切ってもお互いの電荷が引き合うので金属板に残ります。
溜まった電荷は放電できる回路があればすぐに放電されます。
コンデンサへの通電は金属板に電荷が集まってくる一瞬の時間だけです。ですから直流電気は一瞬しか電気を通しませんが交流電気は極性が常に変化しているために流しつづける事ができます。
この様にコンデンサ自体は電気を通過させないので、回路的には電気が流れていていも電荷はコンデサを境に行ったり来たりしているのです。
そこで、図の様に回路にコンデンサを組み込みます。
コンデンサは電流がある時は充電し無いときは放電してくれますのででこぼこの山と山の間を均してくれます。
コンデンサを複数使えば山は更に均されて直線に近い波形の直流を得る事が出来るのです。
コイル(loop)
コイルに電流を流すと磁力(磁力線)が発生します。 しかし、コイルには磁力の変化(磁力線の数の変化)を嫌う性質があります。磁力が無いときは無いままで、磁力があるときはその磁力線の数を変えない様にするのです。
その為にコイルに流す電流を変化させると、コイルの方はそれを妨げ様として逆の電圧を発生させます。
ですから、回路に電流を流すとコイルの働きにより徐々に電圧が上がり、切ると徐々に電圧が下がります。
交流を整流した場合
交流や交直流電車でも、整流した脈流の直流を平滑な直流にする為にコイルが使われています。
この場合脈流の電圧がコイルに流れる電圧より上がって行っても、コイルはそれに逆らってあまり電圧を上げない様にがんばる為、電圧はゆっくりと上がります。
逆に脈流電圧がコイルの電圧より下がってもあまり下がらない様にする為ゆっくりと下がります。
この動作が繰り返されて脈流が平滑な電気となります。
チョッパ制御の場合
チョッパ制御でのパルス電流の平滑化も理屈は同じです。
パルス電流ではスイッチがオンになるといきなり電圧がかかりますが、コイルはやはりゆっくりと電圧を上げ、オフで電圧が無くなるとゆっくりと下げて行きます。
コイルに鉄心が入っていると平滑力は更に強いものとなり、この様に働くコイルを平滑リアクトルと言います。
鉄道車両での平滑化にコンデンサではなくコイルが使われるのは、コンデンサが大電力に耐えられる物で無かった事とコイルの方が回路を簡単にする事ができたからです。
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