アサーティブに行動しよう(役割演技を用いて)
 
     <こ の 授 業 の 魅 力>
1 プリントを綴じた冊子を使って授業を進めていくので簡単です。

2 受け身的・攻撃的・アサーティブの対応例がプリントに書かれてあるので、比べることができます。それぞれの違いがはっきりと分かります。その例を参考にすれば、役割演技を初めて行う場合でも大丈夫です。

3 役割演技を行うので授業に動きが生じます。普段活発でない生徒も楽しんで授業に参加します。      
<授業のねらい>
 役割演技を行うことによって、アサーティブな行動について考える。

<ぜひこの学年で>
 小学校高学年から中学生まで可能です。
 実施は中学二年生でした。

<追試の際の留意点>
 役割演技を行う時にはクラスに実態に合わせてシナリオを多少変えたりするとよいでしょう。
 役割演技を先に行ってその後どういう対応がよいのかを行うのも手です。

<授業記録:第一時>
 
 次の文を読む。
  レストランで
 拓也とかおりがわりあい高級なレストランで夕食をしています。拓也はレアのステーキを注文しましたが、出てきたのはウェルダンです。さて、拓也の対応はどうなるでしょう?
 
発問1 この後、あなたが拓也だったらどう対応しますか?
     1ページ目の枠の中に書きましょう。
 全員が書けたのを挙手で確認してから、どういう対応になったのか隣の生徒同士で発表させ合う。
・何だこの焼き方は、と文句を言う。
・黙ってそのまま食べる。
などという声が聞こえてきた。
 「次のページを開いて下さい」と指示をし、「●受け身的・●攻撃的・●アサーティブ」の三つの対応例を読む。
●受け身的 拓也はかおりに「焦げ付くぐらい焼いてあるじゃないか」とぼやき、「こんな店にはもう二度と来るもんか」と決めます。けれどウェートレスには何も言わず、「いかがでございましょうか」と聞かれても、「結構です」と答えるだけです。彼の夕食も、せっかくの外食の夜もだいなしで、拓也は何も言えなかった自分に腹が立っています。自分の目から見ても、かおりの目から見ても、その株は下がる一方です。
●攻撃的 拓也は怒った顔をして、ウェートレスをテーブルに呼びつけ、注文どおりにしなかったと大声で、しかも不当にガミガミ言います。ウェートレスはバカよばわりされ、かおりも決まりの悪い思いをします。拓也は別のステーキをもってこさせ、今回は好みに近いものになります。彼がその場を取り仕切っている気分の一方では、困惑したかおりとの間にぎくしゃくした感情が生まれ、せっかくのお出かけの夜はだいなし。ウェートレスも屈辱感と怒りで、その夜はさんざんです。
●アサーティブ 拓也はウェートレスにテーブルに来るように合図します。レアのステーキを頼んだことを再び述べ、ウェルダンになっている肉を見せます。彼は、ウェルダンを調理室に返し、本来注文したレアに取り替えるよう、ていねいにしかもきっぱりと頼みます。ウェートレスは間違えたことを詫び、少ししてから、レアのステーキを運んで来てくれます。こうして、拓也とかおりは一緒に夕食を楽しみ、拓也は自分自身に満足します。ウェートレスも、満足したお客とはずんでもらったチップで上機嫌です。

「あくまでも例で、多少大げさに書いてあります」と注意を促す。
 アサーティブについて説明する。

説明1 アサーティブとは、攻撃的でも受け身的でもない方法です。
     抑圧的でも非抑圧的でもないです(と言っ
て板書)。
     無理矢理何かさせるのでもないし、されるのでもない。
     自分の言いたいことをちゃんと言ってしかも相手に嫌な思いをさせないという方法です。
発問2 あなたはどの対応に近かったですか?
 
受け身的・・・・・・12人
攻撃的・・・・・・・3人   (その場で確認したのではなくプリントの記入から)
アサーティブ・・・・10人
 
発問3 どの対応がよいでしょうか?
 挙手で確認する。全員がアサーティブとなった。
 
発問4 なぜそれがよいのでしょう?
 
(プリントの記入から)
・食事は楽しく食べれる方がおいしいから。
・拓也もがまんしなくてすむし、ウェートレスもイヤな思いをしなくてすむから。
・拓也もウェートレスも満足しているから。
・自分の好みのステーキになって、夕食も楽しめ、いやな思いをしなかったから。
・ウェートレスにていねいにしかもきっぱりと頼み、拓也とかおりは一緒に夕食を楽しめたから。
・両方ともいい気分。

 アサーティブの説明を受けた時点で、生徒達はアサーティブが大切だと頭では分かっている。しかし、感想を読んでみると受け身的でもいいんじゃないかというのが幾つかあった。なるほど、上記のようなレストランの場でなら受け身的でもよいのかもしれない。
指示1 二人一組になります。
     片方がお客、もう片方がウェイター・ウェイトレスになって演技をして下さい。
     受け身的、攻撃的、アサーティブの三種類をそれぞれが交替でします。
     はい、はじめ。
 
 25分近く役割演技を行う。はじめはみんな緊張気味でセリフの棒読みのようなぎこちなさがあった。攻撃的な対応を行うあたりからオーバーな反応が出て、あちこちで笑いが生じた。やがて全体が和やかな雰囲気になり役割演技は進んだ。
 台本などを書かせた後行わせればよかったと途中で思ったが、生徒たちは案外混乱なく進めていった。
 
指示2 今日の感想をプリントに書いて、書けた人から提出して下さい。
(●は男子、○は女子)
●アサーティブはいいけど何か勇気がないとできなそう。いいことってやっぱ勇気は必要なのか?と思った。ぼくはどちらかとゆうと勇気のないほうなので、いつも受け身的だからこれから勇気を持ちアサーティブぽくしたい。
●自分がこうかいするより、みんながいやな気持ちになるより、やっぱり、みんなが満足するほうがいい。
○2人組でやったけどやってみるとその人の気持ちがなんとなくわかってくる。レアをたのんだのに、ちがうのがでてくるから、いらいらしてついとりかえてくださいと、言ってしまう。
○私はアサーティブでいいと思うけど、受け身的も必要だと思う。でも、ぜったい攻撃的はいけないと思う。自分も嫌な気持ちになるし、ほかの人達にもめいわくをかけるからぜったいだめだと思う。
●こんな事をしたの初めてで実際やってみるのは難しかった。実際こういう体験をしたことがあったがその時はアサーティブだった。受け身的なのも必要だが注文した通りの物を出させるように攻撃的な意見も大事だと思う。
○攻撃的にするほどのことでもないと思いました。やっぱりアサーティブが良いが気にしないなら、受け身的でもいいようにおもった。いやな気分になるのは良くない。
○ちがうならはっきりとていねいにいうアサーティブが1番いいと思った。いった方もいわれた方もその方が気分がよい。
●アサーティブは客とウェートレスはいい気分だけど肉がもったいないからコックはいやな気分だと思う。
○受け身的は、自分ががまんしてるのもやだけど攻撃的はウェートレスの人もやな気持ちになるし自分はいい気はしないのでやだ。だけどアサーティブはおたがいにやな気持ちもしないのでいいと思う。でも、受け身的も少しあってもいいと思う。
●僕は本当にこういう場合になったら受け身的なことをすると思う。その理由は、僕はレアもウェルダンも好きだからだ。もんくは言わないと思う。しかし、大事な物とかを相手が違って持ってきたらちゃんと言いたい。
●攻撃的は、ウェートレスやまわりにいる人にめいわくをかけてしまう。やっぱアサーティブだ。これならウェートレスやまわりの人にわるい気持ちにさせずに自分の好きなレアを食べれる。でも実際レストランに行ったらやっぱ、受け身的になってしまうかも。でも、自分のいけんをしっかり言おうと思った。

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<授業記録:第二時>
 
 「今日は前の続きです。」と言って前回集めていたプリントを再配布し、授業を進める。
プリントに書いてある次の文を読む。
  借り物
 泰子は利口で、社交的で、その上働き者ですから、同僚にも好かれています。彼女が、家での落ち着いた夜を楽しみにしている金曜日の晩です。友達の麗子が電話をかけてきました。頼みがあると言います。特別に好きな男性とデートのために、泰子の新しい高価なネックレスをかして欲しいというのです。ネックレスは大の仲良しの兄からのプレゼントで、泰子にとっては特別の意味を持つものです。泰子はどう対応するでしょうか?
  
発問1 この後、あなたが拓也だったらどう対応しますか?
     プリントの枠の中に書きましょう。
 
 全員が書けたのを確認してから隣の人と確認させる。
 「次のページを開いて下さい」と指示をし、「●受け身的・●攻撃的・●アサーティブ」の3つの対応例を読む。 
●受け身的 ネックレスが傷ついたり紛失したりするんじゃないかという不安を抑えつけます。自分にとって特別な意味を持っているネックレスだから、人に貸せるような物ではない、と思っていながら「いいわよ」と答えてしまいます。泰子は自分の感情を殺し、麗子の図々しい要求に応じてしまい、一晩中心配しなければならない羽目になってしまいます。
●攻撃的 麗子の頼みに憤慨し、「絶対にダメ!」と答え、そのうえ、「よくそんなばかなことを言えるわねぇ」と非難する始末。こうして麗子に屈辱感を味わわせたうえで、泰子も自嘲気味になり、後になって心配になってきます。一方麗子の気持ちは一晩中おさまらず、みじめな状態を引きずったまま。デートの相手も当惑し、落胆します。この後、泰子と麗子の仲はきまずいものになります。
●アサーティブ 泰子はそのネックレスが自分にとってどんなに大切な意味をもっているのかを麗子に説明します。自分にとって特別なものだから、麗子の頼みはいきすぎである、と柔らかく、しかしきっぱりと伝えます。麗子はがっかりしますが、事情を了解し、泰子も正直に気持ちを表現できたので、いい感じです。麗子も、ありのままでいるだけで、デートの相手に大うけです。
「あくまでも例で、多少大げさに書いてあります」と注意を促す。
  
発問2 あなたはどの対応に近かったですか?
 
受け身的・・・・・・8人
攻撃的・・・・・・・1人   (その場で確認したのではなく冊子の記入から)
アサーティブ・・・・16人
 その下の「どの対応がよいでしょうか?」は(少し間をおいて)アサーティブですよね。
 『「なぜそれがよいのでしょうか?」は前回もやったので省略します』と言って次に進む。 
指示1 二人一組になってまた、演技をします。片方が泰子、もう片方が麗子になります。
     それぞれ交替で演技しましょう。
 15分近く役割演技を行う。和やかな雰囲気で役割演技は進んだ。が、和やかすぎてややうるさくなった。いけないと思いながらも大声で「やり直し」と、三回やり直しさせた。
 
指示2 感想を二、三行書いて下さい。簡単でいいです。
 生徒の感想は第1時のものとほとんど同じだったので省略。
  
指示3 次のページを開いて下さい。
と指示をし、説明の部分を読んでいく。
 
説明1 以下の質問は、あなたのアサーティブネス度を測定するためのものです。
     正直に答えて下さい。自分に
あっていると思う番号をまるで囲んで下さい。
     
これですべて決まるというものじゃありません。
     だいたいこんな傾向かなぐらいに気軽に考えましょう。
 
 生徒は黙々と○をつけていく。約8分後に全員が終わったので次に進む。
指示4 10と11の間に線を引きます。
     1から10は受け身的、11から18は攻撃的かをみるためのものです。
     今から言う番号に○をつけます。1、3、5、6、8、9です。
     これはこういう風に点数にします。(と
言って下記のように板書する)
     それ以外の2、4、7、10はただ数字にマイナスをつけます。
     例えば1の質問で0に丸をつけたら(黒板を指さし)-3になります。
     2の質問で3に丸をつけたらただ
マイナスをつけるだけなので-3になります。
     11から18はそのままの数字です。
     1から10までの点数を足して数字が小さければ小さいほど受け身的です。
     11から18までの点数を足して
数字が大きければ大きいほど攻撃的です。
 
   板書          生徒達は計算の仕方に迷ったようで、さかんに隣の生徒に聞いている。
 1、3、5、6、8、9  説明で計算が分からなかった生徒が多かったので、同じ説明を二回行い、その後机間
             指導を行った。
 0・・・-3
 1・・・-2        指示5 最後に授業全体を通して感想を書いて下さい。
 2・・・-1
 3・・・0        (○は女子、●は男子の感想)
 
○自分であたっているような気がした。
○こんどからどんどん自分の言いたいことを言っていこうと思った。
○私は2つ共同じ位だった。でも、少し受け身的の方が多かったので、これからは少し攻撃的になろう。
●自分は少し受け身的と言うことがわかった
○これは少しよくわからない。でも、少しおもしろかった。
○チェックリストはまあまあおもしろかった。
●自分が受け身的だというのがわかった。自分でも何となくそんな気がした。
○人の気持ちをきずつけないようにきをつけようと思った。
●今いちよく分からない、チェックリスト。おもしろくない。
○あまりあたらないと思うけど、ちょっとそーかな?と思った。
○受け身的の方が多かったけど、あんまりしんようしていない。(このチェックを)
●このテストが本当かどうかわからないが自分はこうだと思った

 数日後、訪問販売に関する新聞記事(H10.2.23読売新聞)を印刷して配布し、生徒に注意を促した。
説明2 あまりにも受け身的で相手の言うことを聞いていると、こういうことにも
     なる場合もあります。
     特にみ
んなが一人暮らしした時など、勧誘の電話が来るかもしれません。
     その時はしっかりと断るようにしまし
ょう。

 例文・対応例はすべてロバート・E・アルベルティ/マイケル・L・エモンズ著 菅沼憲治/ミラー・ハーシャル訳『自己主張トレーニング』(東京図書)より人名を変えての引用です。

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