極める |
何気なくテレビのニュースを見ていたら、篠田桃紅さんが出ておられた。 前衛書家である。 もう、四十数年も昔、あるお宅に伺った時、桃紅さんにお会いした。 お会いしたというより、そこに桃紅さんが居られたというべきか。 背がすらりと高く、毅然とした感じで、和服の帯を低く締めた美しい方 だったと記憶している。 当時私は未だ筆など持つ事もなく、桃紅さんのことも知らなかった。 後に、その書を拝見して驚愕した。 シャープな線で書かれた絵のような文字だった。 まさに前衛書道だった。切れ味鋭いその書を拝見しながら私は、あの夜 の桃紅さんを思い出していた。 テレビの画面で、皇后さまと話しておられる桃紅さんは、年配になられ てはいたが、やはり、和服で低く帯を締め昔日の桃紅さんだった。 何の道にしても、一つの道を極めるのは大変なことだ。 勿論才能がなくては駄目だろうが、毎日の努力の積み重ねの結果だと 思う。 私の師匠は、もう故人になられたが、居合抜きの達人であり、哲学書を 読み、仏教の本を読む方だった。 その書は、鋭さの中に温かみと優しさに溢れ、実に品のいいものだった。 その道に研鑚を積むのは当然のことだが、それに人間性とその生き方が 裏打ちされなくてはならない。ならないというより、裏打ちされたものが 結果として現れてくると私は思う。 私の一生は結局なんだったのだろう。何一つ出来ていないじゃないか。 漫然と日々を送る私だが、毎日反省している。 ーーーーーーーー『反省だけなら猿でも出来る』ーーーーーーーー |