桃花流水


(その八)


別に知ったか振りをする積もりじやないけど、ちょっと知っていて

とっても好きな詩がある。

  余に問ふ何の意ありてか碧山に栖むと。

  笑って答へず心自ら閑なり。

  桃花流水杳然として去る。

  別に天地の人間に非ざるあり。

     (山中問答   李白)

私は、何時までも生臭くて、悠々と天地自然を楽しむ心になどなれない

から、この詩のような閑静な心に憧れている。

「山の中には、桃の花が咲き谷川の水がはるかに遠くまで流れていて、

俗世間以外の別天地があり・・・・・。」

此処は桃源郷かもしれない。




桃源郷!!・・桃の花の咲き乱れる平和な理想郷・・・空想の世界・・・。

空想はお手のものだ。心の中に桃源郷を持てばいい。

いや待てよ、空想ではない。

不平、不満、猜疑心、そういうものを全部捨て去り、心を空(くう)にする

「一切空」の心になった時、私は心地よく「桃源郷」に遊ぶことが出来る

のではないか。

私が初めて書いた横額は「一切空」の三文字だった。

まだ四十歳位だったと思う。しかし、私は遂に「一切空」ではいられなかった。

私の肉体が文字通り「一切空」になる日まで、どれだけの猶予期間があるか

知らないが、「私の桃源郷」を私なりに探し続けよう。



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