12月8日


(その十七)


≪大本営発表!
 帝國陸海軍は、今八日未明、米英両国と戦闘状態に入れり≫

“うっ やった〜っ”洗顔中だった父は歯ブラシを落とさんば
かりだった。

昭和16年12月8日の朝、日本中を武者震いさせたラジオの
声を私は忘れることが出来ない。
小学六年の子供には詳しいことはわからないが、なんだか
どえらいことが始まったらしいと一人前に興奮したものだった。

ABCD包囲網。 松岡洋右氏の国連脱退になんだか、国民は
“よくやった!”みたいな感じで溜飲を下げていたような気が
する。

正直言って、この辺の経緯はよく分からないが、今思えば、
日本の侵略行為に対して、経済制裁をされていたのだろうか。

≪大本営発表!・・・・・≫ 赫々たる戦果が次々にラジオか
ら流れ、小国民といえども、血湧き肉踊るものがあった。

今のように、情報が溢れ自由に知る事の出来なかった時代だも
の。威勢のいい発表に、“神風が吹いているんだ”と本気で思
っていた。

教育は恐ろしいものだ。純粋な子供を洗脳するなんて朝飯前ね。

あの頃生まれた赤ちゃんがもう還暦?

21世紀の地球上で、あの頃の我々のように現人神を信じて疑わ
ない人々がいるようだ。国があるようだ。
やはり、情報が操作されているらしい。
しかし、このITの時代にいつまでも、見ざる、聞かざるという
わけにもいかないだろう。

我々は、徹底的に叩きのめされて、一からの出発をし廃墟の中か
ら全く新しい時代を築いてきた。
経済大国だなんて言われて随分お金も出しているらしい。

しかし、好景気は長くは続いていない。
シャッターの下りたままの商店街を歩くのは淋しい。
ついに、足元の銀行が破綻した。暫く国営化されるそうだ。
好景気の波に乗ってずさんな貸付をした結果、不良債権を
回収出来なかったのが要因だろう。

地球上には、桁外れの富を持つ特権階級と、飢餓に喘ぐ人々と
いう、不平等な世界がある。
目ばかり大きくて、笑うことを忘れた可哀想な子供たちを私達は
忘れてはいけない。
まして、罪もない平凡な市民を銃火の犠牲にする権利は何人と
いえども、持っていない。

同じ人間として、絶対に許されないことである。(15.12.8 記)


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