台風に想う

(その十一)


雨が音を立てて降っている。台風はどうやらなくなって雨だけに
なったようだ。
五月の台風は珍しいと予報官が言っていた。

台風というと必ず思い出すことがある。
台北の家は、純和風建築、つまり昔の日本の家で、((^.^))雨戸
だらけだった。
台風がまともにぶつかるので、家は防風林に囲まれていた。

まあ、昔はどこのお宅もそうだったと思うが、台風がくる度に窓に
斜めに板を取り付けて窓が破れないように男達は必死になって
いた。ガラス戸だって、今のようにサッシじゃないからすぐ割れた
ものだ。

ある夜のことだった。物凄い雨風に、例によって家中の雨戸が閉
められたうえ、停電でもしたのか真っ暗だった。
特に風当りの強い場所に集って父と兄はあちこちと抑えていたよ
うだ。母はロウソクを持っていたと思う。

突然、雨戸が外から叩かれた。「とん、とん」・・・「こーん」・・
こん、こん、と叩いている。“ダレカいる〜”と私は怯えた。

一番奥の部屋は昔、祖父が寝ていた(白い布を掛けられて)、私
にとって最も怖い場所だった。

「早苗!おじいちゃんだ!!おじいちゃんが<さなえ子〜〜>って、
逢いにきてるよ」〜〜〜〜。
父と兄はそういって私をからかった。

六つ年上の兄は、柔道をやっていてとても頼もしかった・・?
ロウソクの灯りの揺れる気味の悪い部屋を私は兄の服を掴んで
くっついて歩いたっけ・・・。

えっ、結局あの音はなんだったのかって?

あれはね、防風林にしていたビンロウの実だったのですよ。(笑)
物凄い風に飛ばされて雨戸に当っていたんですねぇ。
「コツン、コツン」って。

ビンロウの実は集めて乾燥させ、お風呂の燃料になりました。


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