来し方を想ふ


(13) 尻餅は怖い


五十年前の大森駅での話。
熊本から上京したばかりの私が、山王口で乗車券を買って
颯爽と歩き出したその時、ステーンと見事に滑って尻餅を
ついた。

あまりの痛さに“う〜ん”と唸ったまま立ち上がることも
出来ず、しかし、スカートの裾だけ直して、誰か助けて
くれないかなと、唸っていた。

東京の人は薄情だった!。
ちらっと此方を見ながら、みな知らん顔をして足早に通り
過ぎていった。
当時の靴は、踵に鋲を打っていたので、スロープになって
いた床じゃたまらないわ。

まだ生娘の私は、病院にいくのも恥ずかしく、したたかに
打った尾てい骨の痛みを我慢した。三ヶ月も。
ヒビでも入ったか、ズレなども生じていたと思う。

何年か前、懐かしい大森駅で降りたのだけど、すっかり
変わったわねぇ。駅ビルも出来ていた。
でも、あのスロープは相変わらずあった。

この前、整形外科でこの話をしたら、「三ヶ月も痛むなん
て入院するほどのものですよ」と、医者は私の話を信用し
なかった。

お尻を診せるのが恥ずかしかった、まだ初々しい時代の
話です。(笑)(平18.12. 6記)


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