来し方を想ふ |
五十年前の大森駅での話。 熊本から上京したばかりの私が、山王口で乗車券を買って 颯爽と歩き出したその時、ステーンと見事に滑って尻餅を ついた。 あまりの痛さに“う〜ん”と唸ったまま立ち上がることも 出来ず、しかし、スカートの裾だけ直して、誰か助けて くれないかなと、唸っていた。 東京の人は薄情だった!。 ちらっと此方を見ながら、みな知らん顔をして足早に通り 過ぎていった。 当時の靴は、踵に鋲を打っていたので、スロープになって いた床じゃたまらないわ。 まだ生娘の私は、病院にいくのも恥ずかしく、したたかに 打った尾てい骨の痛みを我慢した。三ヶ月も。 ヒビでも入ったか、ズレなども生じていたと思う。 何年か前、懐かしい大森駅で降りたのだけど、すっかり 変わったわねぇ。駅ビルも出来ていた。 でも、あのスロープは相変わらずあった。 この前、整形外科でこの話をしたら、「三ヶ月も痛むなん て入院するほどのものですよ」と、医者は私の話を信用し なかった。 お尻を診せるのが恥ずかしかった、まだ初々しい時代の 話です。(笑)(平18.12. 6記) |