俳句


(三十)


とろろ汁母の味には及ばざり

父は、母のとろろ汁が大好物だった。私はいつも擂鉢を
抑える役だった。家族六人が舌鼓をうったあの味に私は
遠く及ばない


二三本垂るる糸瓜に父想う

私がまだ子供だった頃、化粧水は糸瓜からとっていた。
うろ覚えだけれど、満月の夜に、穴を開けた糸瓜の下に
一升瓶を置いて、一晩経つと相当溜まっていたように思う
これは父がやっていたように記憶している。


秋刀魚欲しと夫は母を偲ぶごと

若い頃は、秋刀魚など全然食べなかった夫だが、最近
秋刀魚が食べたいなどと言うようになってきた。
歳をとって子供の頃を思い出すのだろうか。


初紅葉渓流の白際立たす



開け放つ窓に秋冷至りけり

抜けるような青空に、不意に何処も此処も開けたくなって
家中の戸を開けることがある。やっぱり冷たいわ〜。


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