俳句


(二十)


発ちし子の湯呑の厚み夏果てぬ

帰省していた息子が帰っていきました。私の今年の夏は
終わりました。


葉の裏に忘れられたる曲がり茄子

手入れの行き届いた、どこかのお宅の菜園でしたけど
小さな曲がった茄子がひっそり残ってました。味は変わらない
でしょうに。


物の怪の憑きたる如く鮭のぼる

産卵の為に鮭が遡上しますが、傷つきながら、ぼろぼろに
なって必死に子を産みに来ます。母の姿ですね。


甲子園球児の汗を吸ひて閉づ

今年の決勝戦は感動的でした。純粋な少年の戦いはいつも
感動的ですが、今年は、とくに、72歳の監督の引退の花道を
飾ったということで、えらいえらいと涙したものでした。


竜胆の鉢選び合ふ那須の朝

那須高原の朝、清々しい大気の中、ずらりと並んだ濃紫の
竜胆はとても美しく可憐でしたねぇ。


西瓜切る母の皿には端ばかり

昔々まだ子供だった頃、よく冷えた大きな西瓜を切る母の
魔法のような手捌きに見とれたものです。
真ん中の一番美味しいところは父の皿にいきました。
万遍なく行き渡った西瓜でしたけど、母はいつも端っこの
平べったいところを食べてました。


かなかなや窓辺に母の姿なく

晩年の母は、いつも慌しく帰る私を窓辺に立って、いつまでも
いつまでも手を振って見送っておりました。



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