俳句


(十六)


ペン先のふはりと軽し目借り時

仕事を引退して間もなく十年になる。追いまくられて終日ペンを
握っていた時、疲れ果てて猛烈な睡魔に襲われたことはしばしば
だった。ペンは確り持って書いてる積もりだったが・・・


春昼や鏝の動きを見てゐたり

毎日が日曜日になった。左官屋さんの見事な鏝捌きを見るともな
くみている。所在無い春の日の午後。


春愁の民芸店に香匂ふ

鎌倉の小さな小さな民芸店に入った。さりげなく香が匂っていた
藍色の布で覆ったちょっと大きめのブローチを買った。
私のお気にいりのブローチだ。今も大事に使っている。


クローバー四つ葉ばかりの爆心地

私がまだ二十歳ぐらいだった。長崎の原爆資料館など訪れた
事があった。あたり一面はまだ野原だった。クローバーだらけ
だったように記憶しているが、不思議なことに全部四つ葉だった
と思う。幸運を呼ぶという四つ葉のクローバーである。
何故! 何故! ここに・・私は胸を詰まらせた。

すれ違う媼よもぎの香を残し

どこかで蓬を摘んでこられたのだろう。あの袋に入ってるの
かな?美味しい蓬餅を作って大家族で楽しまれるに違いない。
羨ましいな。


たんぽぽの径どこまでも道祖神

素朴な素朴な径です。人の気配も感じられない。でも径なんです


囀りや窓いつぱいに開け放つ

爽やかな朝!賑やかな囀りが聞こえる。私も仲間に入れて!



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