ふり返れば

(その二)


   古い話で恐縮でございますが、引揚げ船のお話です。

     台湾の基隆港に集結したのは、昭・21・3・20日
   でした。

     貨物船の船底に押し込められ、お仏飯のような、ほんの
   一口のご飯に、乾燥野菜が一筋か二筋はいったお汁、
   後はなにかありましたでしようか、憶えておりません。

   子ども達が可哀想だといって、母は持っていたドロップ
   を、周りにいる他所のお子さんにも配ってしまい、
   あっという間に空っぽになってしまいました。

   重く白く澱んだ空気・・・。

   沢山の御霊が眠る台湾海峡です。

    ある夜、大嵐に見舞われました。
    船底で、横になっていた母は酷い船酔いで、それはそれは
   可哀想でした。
   「どうも同じ所を廻っているらしい」
   そんな噂が方々で囁かれていました。


   若い男達が、船の厨房に入り、大釜に残っているおこげ
   を、われ先に口に入れる姿を忘れることは出来ません。

           「おーい、内地だ、内地が見えるぞー」
   基隆を出て一週間目でした。

      広島の大竹港に入港したものの、伝染病が出て、一週間
   足止め。
   そんな中でも、船員の方は、私達を慰めようと、歌など
   唄ってくれました。
   ♪男純情の〜♪♪ 灰田勝彦さんですねえ。

   入港して、最初に頂いた食事が、あさりの塩汁でした。

   美味しかったあ!!

   その後、あんなに美味しいあさり汁に、まだ一度も出会って
   おりません。

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