露天風呂?

(九)

私は今、二日分ずつ買い物をしている。毎日出かけるのは億劫
だし、第一、時間が勿体無い。

ある日、大荷物をよいしょよいしょと抱え込んで帰ってきた私
に、突然主人の声!。
「露天風呂付き客室だって!偶には温泉にでも行きたいなあ」

歩きが少し不自由になっている主人は、息子が誘ってもついぞ
出かけなかったのに、流石に詰まらなくなったのだろう。
或るパンフレットを見てその気になったのか声を弾ませていた。

久しぶりに、本当に久しぶりに、何年ぶりだろう。私達は
昼なお暗き杉並木の例幣使街道を通って鬼怒川に向かった。
大浴場に入れない主人が楽しみにしている露天風呂はもうすぐだ。




天気予報が一日ずれたのか、朝からの雨が宿に着いた頃から
土砂降りになった。 ♪土砂降りの雨のなか〜

部屋の続きの場所に、壁のない風呂場ができていた。
小庭には下駄で降りられるようになっていて、その先は渓流が
音を立てて流れ、色づき始めた紅葉の山が迫っていた。



夜来の雨も嘘のように上がり、澄んだ青い流れときらきら光る
紅葉の山を見ながら入る朝風呂はまた格別だった。
おやおや、小原庄助殿は冷たいビールを飲んでござるわ。

ロビーまで行く途中、窓から撮った山はまた別の趣だった。



さて、私は売店で恒例の買い物じゃ〜。それではごめんくだされ。





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