おかげさんで |
「水は方円の器に随う」という諺があります。 四角い器に入れれば四角に、丸い器に入れれば丸く、 水は器の形のままになります。 私も、何時の頃からか器に随うようになりました。 しかし、時として、水は器より溢れ、自分の好きな形に なりたがりました。 溢れた水はどうなったでしょう。 結局流れ方も解らず、そのまま乾いてしまいました。 そしてまた、四角は四角に丸は丸に与えられた器の中で 過ごして参りました。 私にとって、器は家庭でもあり、世間でもありました。 人間は十人十色、実にさまざまな人がいます。 器の形もさまざまでした。 私はいつも思いますが、“ここで生まれてここで育って” と仰る方がおられます。なんと羨ましいことか。 幼友達が居て、学校友達が居て、歳をとっても何々ちゃん と呼び合って、素晴らしいですね。 私には誰も居ません。転校につぐ転校、戦争、勤労動員、 引揚げ、転居につぐ転居。九州を渡り歩いて、日本列島を 北上して、やっと終の棲家に落ち着きました。「よそ者」です。 でも、“おかげさま”で心安らかな暮らしをさせて頂いて おります。散歩にも出かけなくなった主人のことを心配して 「ご主人は元気?」「この頃見かけないけど」などと言って 下さいます。 「ええ、おかげさまで!」 |