おかげさんで

(その四)


「水は方円の器に随う」という諺があります。

四角い器に入れれば四角に、丸い器に入れれば丸く、
水は器の形のままになります。

私も、何時の頃からか器に随うようになりました。
しかし、時として、水は器より溢れ、自分の好きな形に
なりたがりました。
溢れた水はどうなったでしょう。

結局流れ方も解らず、そのまま乾いてしまいました。
そしてまた、四角は四角に丸は丸に与えられた器の中で
過ごして参りました。

私にとって、器は家庭でもあり、世間でもありました。

人間は十人十色、実にさまざまな人がいます。
器の形もさまざまでした。

私はいつも思いますが、“ここで生まれてここで育って”
と仰る方がおられます。なんと羨ましいことか。
幼友達が居て、学校友達が居て、歳をとっても何々ちゃん
と呼び合って、素晴らしいですね。

私には誰も居ません。転校につぐ転校、戦争、勤労動員、
引揚げ、転居につぐ転居。九州を渡り歩いて、日本列島を
北上して、やっと終の棲家に落ち着きました。「よそ者」です。

でも、“おかげさま”で心安らかな暮らしをさせて頂いて
おります。散歩にも出かけなくなった主人のことを心配して
「ご主人は元気?」「この頃見かけないけど」などと言って
下さいます。

   「ええ、おかげさまで!」


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