| 五 日曜、それぞれの朝 |
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| 「んぁ……? んー……」 寝ぼけた様子で、目覚まし時計を見る。 「今何時だ……? あぁ、九時五十分か……。ふぁ〜ぁ……ん? ……ぐはっ!」 時間を確認したあと、まるでピンポン玉が弾け飛んだような勢いでベッドから跳ね起きた。 どたどたどたどた! 「やばい! 二度寝しちまった! 完全に遅刻だっ!」 祐一は美汐が危惧したとおりのことをそのまま実行していた。 駅まで二十分程度。百メートルを七秒で走ればまだ余裕だが、日本記録で走ってしまうとギリギリ間に合うかどうか、という程度になりつつあった。 「エクセレント着替え! ワンダフル歯磨き! ゴールデン髪梳き! ハイパー洗顔! そしてトドメのウルトラトイレーッ!」 猛然と、でも意味が理解しにくい技名を叫びながら全てをこなす。しかし効果は無く、むしろ時間は遅くなっていった。 「秋子さん、ちょっと出かけてきます!」 「あら? どちらへ?」 「散歩です!」 玄関口でたまたますれ違った秋子にそう言い残し、ドアを勢いよく閉め、出ていった。 「……ずいぶんと慌ただしい散歩、ですね」 嵐が過ぎ去った玄関を眺めながら、秋子は落ち着いた様子でそう呟いた。 「くそっ! 自分で誘っておいて遅刻とはいい根性してるぜ!」 自分自身をそう貶しながら、全速で駅に向かって走る。 あまり言いたくはないが、三年になってからも殆ど毎朝、名雪とともに走ってばかりいるので、走力、体力、持久力ともに望むべくもなく鍛え上げられてしまった。 喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、であるが、この場合に限り助かってしまっていた。 「く〜っ! 名雪に感謝すべきなのかっ?」 時間には間に合いそうにもないが、水瀬家から駅までの最短時間更新はほぼ確定になりそうだった。 ……果たして、駅まであと数百メートルのところまで辿り着く。 「はぁ、はぁ、はぁ……あと少し……よし、そのカーブ、もらったぁ!」 祐一は一人盛り上がり、最後の右直角カーブをセオリーどおりのアウトインアウトで曲がりきるため、わずか左に寄った、そのとき。 「相沢祐一!」 「なっ!」 キキーーーーーッ! 「たっ、とっ、とっ……」 誰からかわからないが、自分が呼ばれたため、祐一は急ブレーキをかける。 「だ、誰だ! 危ないだろ!」 「やっと来た……」 声をした方に向く。そこには、見たことがない男が、にっこりと笑いながら立っていた。 歳は同じくらい、もしくは年下。いかにも穏和そうで、子供がそのまま大きくなったような可愛らしい顔立ち。身長は祐一と同じくらいで、ひ弱そうな身体。 「はじめまして、相沢祐一」 そして、彼は気味が悪いほど好意的に挨拶をしてくる。 「誰だ、お前……?」 それでも祐一は不思議と落ち着いた様子で、そう聞き返した。悪意がまるで感じられない、あまりに純粋すぎる瞳がそうさせたのかもしれない。 「解らない?」 「なんだって?」 その答えに思わず祐一は首をひねる。 そもそも、相手がはじめまして、と言っているのに、解るも解らないもない……はずだった。 「……!」 でも、気が付いてしまう。 彼が何者かが、何の根拠もないのにはっきりと解ってしまったのだ。 きっと、天野と俺が出会ったときに、真琴を見ていたときも、こんな風に勘づいたのだろうか。 そう、祐一は感じた。 「気が付いた? 僕のこと」 「お前……まさか」 祐一の言葉に、にっこりとしながら、こくり、と頷いた。 「相沢祐一、頼みがある。……僕の言うことを聞いて欲しい」 |