其の二
〜夕食ハンザイ!〜


「浩之ちゃん、ご飯の用意が出来たよ」
「あぁ」
 なんだかんだ言って飯が美味いのがわかっているのはなんとなく安心する。
 さすがにマルチが学習型でも、学習する対象がいなけりゃ意味を持たない。味は判別出来ないらしいが、舌の部分でおおよその成分は判別できるらしいから、作る行程を見て、作られたものを少しなめると、全く違うらしい。
「今日はカレーライスにしたよ。マルチちゃんが覚えやすいものかな、って思って」
 確かに、カレーライスは基本的な事をまんべんなく学習できる料理だし、調理器具の基本的な使い方までマスターできる、いうなればベストオブ料理練習用メニューといえるだろう。
 しかも味付けとかもあまり気にしなくてもいいし、すこし失敗したところでも喰えてしまう。
 今のマルチにはうってつけだ。
 しかし、あかりの作るカレーは、ルーなんかに別段工夫を凝らしているわけじゃないのに、どうしてかその辺の店とは比べものにならない程美味い。
 何にせよ楽しみだ。



 CMにでも出てきそうなカレーライスが、いい匂いをふわふわと漂わせている。
「今日はキノコとアスパラガスを盛り込んでみました〜」
 なるほど。
 あかりは普通のカレーももちろん作るが、こういう風に何かしら良い意味で変わったものを混ぜて、ちょっと工夫をする傾向がある。
 しかも今までではずれがない。
「じゃぁ、頂くとするか」
「うん、そうだね」
 とりあえず、一口食べてみる。……うーん……美味い。
 さすがあかりだ。あかりにとって簡単な料理でも妥協はまるで許さない。
「うん、美味いな。さすがあかりだ」
「ふふっ……そう? まだいっぱいあるから遠慮なくおかわりしてね、じゃぁ、私も食べようっと」
 こうして、オレは、久々に美味い飯をごちそうになった……と思っていた。



 ???? か、身体が……??
 た、確かに美味かったが……、なんか……おかしいぞ???
「あ……あかり……、まさか……カレーになにか……」
「ま、まだ……何も……入れて……ないよ??」
 じゃぁ……いつかは入れる予定だったのか……??
 でも、今回はあかりもぱくぱく喰ってたからな……。
 そ、それじゃなければ……。
「……じゃぁ、キノコにでも……当たったか……?」
「ま、マルチちゃん? これ、普通の……椎茸だよね?」
「……は、はいぃ……、その……」
 もじもじしている……まさか……。
「まさか……どっかで拾ってきたとか……そんなんじゃ……」
「ち、違いますぅ!! あの、その……」



♪たらら〜ら〜ららら、ら〜ら〜ら〜らら〜……

『えっとぉ、もうこれで全部ですよね……あれ?』
”裏にも書いてあるから注意!”
『はわっ!?』
 ぺらり。
”椎茸(これが無ければ、売っているキノコならなんでもいいよ)二パック”
『は、はわわ〜っ!? キノコを忘れましたぁ! 戻らないと……』
『可愛いお嬢さん、キノコをお探しなのかしら?』
『……ぇっ?』
 そこには、二十歳くらいのお姉さんと、中学生くらいの方がいらっしゃいました。
『お、お姉ちゃん……それ……』
『これ、そんじょそこらのキノコより味はいいわよ? 宜しければいくつかお譲りするわ』
『本当ですか!? ありがとうございますぅ!!』
『あの……その……それは……むぐっ!?』
『はいはい、初音は黙っててね〜。生えすぎて困っているくらいですから、お金はいりませんよ』
『む、むぐぐ、むぐぐぐ〜っ!?』
(……あれ?? お姉さんの雰囲気が先程と一瞬変わった気がしましたが、すぐ元に戻られましたね……??)
『じゃあ、はい』
『わ、あ、ありがとうございますぅっ!!』



「……ということだったですが」
「……」
「……」
(は、はわっ? お二方とも、いつもと雰囲気が違いますぅ……)
「浩之……」
「は、はい、あかりさん!!」
「はわ?」
「てめぇ、あたしが作ったカレー、喰えねぇっつーんか? あぁ!? コラ!!」
 どおおおん!!
(は、はわーーーっ……テーブルがぁ……)
「い、いえ!! とても美味しく頂かせて貰っています!!」
 がしぃっ!!
「は、はわわ〜っ!? あかりさん、浩之さんの襟首持たないでくださぁい!!」
「てめぇは黙ってろ!! これはあたしと浩之の問題だ!!」
「は、はいぃ……」
「おいおい、ひ・ろ・ゆ・き? 一体誰のおかげでこう食べられると思ってんだ? あ?」
 ぺちぺち。
(はわわっ……あかりさん……すごい目で浩之さんの頬をぱしぱしと叩いてますぅ……)
「……そ、それはあかりさんのおかげです」
「だったら!! もっとたくさん食って、あたしの愛情をとっぷりと味わいなっ!!」
「は、はいぃ!! わかりました!!」
(は、はわわ〜っ……浩之さん、涙ながらに一生懸命食べてますぅ……)
「ふん、どうだ? 美味いか? 美味いだろ?」
「は、はい、美味しいです!!」
「わーっはっはっ!! そうだろそうだろ!! なんたって、愛情がこもっているからなぁ!!」
「は、はい……、とても愛情が伝わってきます!!」
「んー? なんか気持ちが入ってないぞ?」
「と、とんでもありません!!」
「あーっはっはっはっは!!」
 …………。
 ………。
 ……。



「うーん……??? あれ? オレ、どうしたんだ?」
「私も……?? 何してたんだろ?」
「……」
「あ、マルチちゃん……私、どうしちゃったの?」
「……愛情を伝えるって大変なんですね。勉強になりました」
「は??」
「マルチちゃん、いきなりどうしたの??」
 
マルチ。特殊な愛情表現、学習。

其の三〜 きもちんよか〜、バスタイム 〜に続く!

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