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 曲目解説/大田哲弘、河原奈美

F.ディーリアス  オペラ《コアンガ》よりラ・カリンダ

Eエルガー  朝の歌

S.ドナウディ-  ああ、愛する人の

          私の愛の田々

F.リスト  愛の夢

C.ドピュッシー  アラベスタ

F.プーランク  ソナタ

 

F.ディーリアス(1862〜1934)  オペラ《コアンガ》より ラ・カリンダ

 イギリスのヨークシヤー州のブラッドフォードに生まれる。1897年の結婚後、バりの近郊の村グレ=シュールロワン くロワン河畔のグレ)に移り、生涯同地で作曲活動を送っている。彼の作品は純粋にロマンチックなものであり、無限なるものへのノスタルジーを感じさせるものである。 かつてはアフリカの酋長であったコアンガは奴隷として売られ働いていたが、彼は美しい奴隷の混血娘パルミラと出会い、恋に落ちる.そしてその婚礼の時に奴隷達が踊るのが、この「カリンダ」である。

 

Eエルガー(1857〜1934)  朝の歌

 イギリス音楽の重要人物として近年再評価されているエルガーの父はオルガン奏者であった。交響曲やオラトリオといった大作も数多く発表しているが「愛のあいさつ」をはじめヴァイオリン奏者でもあった彼はヴァイオリンとピアノのための愛すべき小品の数々も作曲している。「朝の歌」もその代表作の1つである。

 

Sドナウディー く1879〜1925)  ああ、愛する人の

                  私の愛の日々

 イタリアのバレルモで生まれたドナウディは、13歳の時より数曲のオペラを作曲しているが、今日上演されることはない。 彼は音楽学校在学中に、バロック、古典派(イタリアでは古典派もパロツコである)のオペラ作曲法を研究しており、現在はその成果として作曲された、Arie di stile antico(古典様式によるアリア集、全36曲)の数曲が演奏会で取り上げられるにすぎない.本日はその中でもとりわけ魅力的な代表作2つを取り上げた。

 

F.リスト(1811〜1886) 愛の夢 (ピアノソロ)

 混沌としたロマン派芸術の流の中で波乱に満ちた愛情生活を送ったリストは演奏家であり作曲家であり教育家でもありましたが、何よりもあまりにも健大なピアニストでした.音楽のための技巧から技巧のための音楽といっても過言ではない程の、ピアノ演奏上の名技主義を完成させたリストですが、1850年頃に作曲された「愛の夢」3つの夜想曲では技巧的なものは抑えられ、音楽として非常に美しいものとなっています。3 曲ともリスト自作の歌曲からの編曲で、この第3番「愛しうる限り愛せ」はフライリヒラートの詩がもととなっています。

 

C.ドピュッシー(1862〜1918)アラベスク (ピアノソロ) 

 アラベスクとは本来、「アラビア風」という意味でアラビア建築の美術的装飾をさすのですが、音楽に於いては幻想的、装飾的な性格の曲の標題のひとつになりました。フランス印象派の詩や絵画に強く惹き付けられ、音楽の中にその感覚と影像の芸術を取り込み、新しい音楽の扉を開けたドピュッシーは1888年ピアノのために2つのアラベスクをみずみずしさとうつろいやすい優雅さをもって作曲しました。           

 

F.プーランク(1899〜1963)  ソナタ

 .Allegro malinonico

 .Cantilena  

 。.Presto giocoso

 このパリ生まれのお洒落な作曲家プーランクが残した唯一のプルート・ソナタは20世紀のフルート作品のみならず、 古今のフルート作品の中でも第1級の名作である。初演は2000年5月に亡くなったフルート界の巨匠J.P.ランパルと作曲者自身のピアノであった.

 

W.A.モーツァルト  ソナタK.304  Eグリーク   春に零せて

J.S.バッハ  アダージョ A.ピアソラ  カフェ1930

A.タクタキシヴィリ  アリア      本居長世  七つの子       

          山田耕筰  赤とんぼ

 

W.A.モーツァルト く1756〜1791)  ソナタK.304

   .Allegro

   .Tempo di Menuetto

 モ ーツアルトがかいた唯一の短調のこのヴァイオリン・ソナタは1778年にマンハイムからパリヘの職探しの旅行中 に作曲されている.パリでは仕事も見つからず、あらぬ事に最愛の母を失うことになるが、このソナタにはその時の  モーツアルトの心の葛藤が描かれているといっても過言ではない.

 

J.S..バッハ(1685〜1750)  アダージョ

 バッハが番いたメロディーの中でも極めて美しいものの1つとして挙げられるこのアダージョは、カンター夕第156番〈片足は墓穴にありて、われは立つ)の第1曲目のシンフォニアのなかで、オーポエによって演奏されるものである.このメロディーはBWV.1056のチェンバロ協奏曲(ヴァイオリン協奏曲)の第2楽章のラールゴにも使用されている.

 

A.タクタキシヴィリ(1924〜1989)  アリア

 タクタキシヴィリはソビエト連邦に併合された直後のグルジア共和国に1924年に生まれている.彼は、グルジアの作曲家協会会長としての活動の傍ら、グルジア共和国の文化大臣を20年にわたり務めその責献は顕著であった。本日演奉するアリアは彼のかいたフルート・ソナタの第2楽章にあたる。曲は3部形式で、グルジアの民族音楽やグルジア正教の祈りを連想させる.

 

Eグリーク(1843〜1907) 春に寄せて

 北欧、ノルウェー生まれのグリーグは、真のスカンジナビア音楽の精神を求め、ノルウェーの国民的な芸術を生み出そうと努め続けた作曲家です.そのグリーグの「心の日記」と言える、彼が生涯、折に触れて作曲したピアノ曲集・叙情小曲集の中のひとつがr春に寄せて」です.彼がデンマークに施行したときにホームシックになり、友人に次のような手紙を出しています.「春は春だ.さえずる小鳥はさえずる小鳥だ.そしてそういうものはここにも豊にある.しかしそれらは私の心を動かさない.厳しく野性的な美しさ溢れるノルウェーの自然が恋しくてしかたなくて、それをたたえる歌を作ってしまった.とくに目新しいものではないが、私の心からの率直な気持ちをたくした。」1886年4月26日

 

A.ピアソラ(1921〜1992)  カフェ1930

 近年、世界各国で人気のでたピアソラは1934年に(当時はニューヨークに住んでいた)ガルデルと出会う。ピアソラのバンドネオンの腕前を認めたガルデルは中南米ツアーに彼を誘うが、両親の反対でピアソラ少年は参加できずに、そして、そのツアー中にガルデルは飛行機事故で死亡してしまうのである.何とも不思議な運命である。 ピアソラのタンゴには、フルートのための作品も多く、本日演奏されるカフェ1930はフルートとギターのためのタンゴの歴史という4つの作品群の中の第2作目にあたる.

 

本居長世(1885〜1945)  七つの子

 長世は、国学者で有名な本居家(東京)こ生まれた。最初はオペラへの意欲を示したが、後に童謡の創作に専念するようになる.この「七つの子」以外にも、「赤い靴」「青い日のお人形」「十五夜お月さん」等、有名な作品も彼の手によるものである.いずれも日本の叙情に溢れた作品である.

 

山田耕筰(1886〜1965)  赤とんぼ

 ベルリンに留学して作曲を学ぶ.日本初のオーケストラ(現・東フィル)を組織し、日本のみならずヨーロッパやアメリカにても自作を数多く発表し、日本音楽界最大の偉業を成し遂げた作曲家のひとりである。交響曲からオペラまであらゆるジャンルに優れた作品を残しているが、日本人ならば知らない人がいないであろうこの「赤とんぼ」にも、山田耕符の音楽実に対する優れた感覚が伺える。 このメロディーのもつ完璧な美しさは、比類のないものである.