焼物のギャラリー


 
 
 
 
 
 
一日くらい陰干し


************ 借窯徒然 ************

    ж44ж モロクロ

 まずはご注意です。
 今回は前半に化学記号やらなんやらがごちゃごちゃ書かれていますので、それらが苦手または面倒という方は後半からお読みください。
 (と、書くと前半は水増しの為に書いた、と言っているようなものですね……。)
私の黒作品
 
大谷津砂 40.0
鼠石灰12.0
釜戸長石6.0
芦沼石16.0
酸化コバルト0.8
酸化クロム0.8
酸化第二鉄2.4

それぞれの成分は

SiO2Al2O3MgoCaOCoOK2ONa2O
Fe2O3TiO2Cr2O3
大谷津砂69.114.60.51.902.72.72.900
鼠石灰0.40.20.0455.001.251.25000
釜戸長石76.314.201.004.44.4000
芦沼石66.513.61.63.70226.50.60
酸化コバルト000010000000
酸化クロム0000000
00100
酸化第二鉄000000010000
ゼーゲル式にすると
0.05Mgo  0.41Al2O3 3.34SiO2
0.67CaO  0.14Fe2O3 0.01TiO2
0.09K2O  0.02Cr2O3
0.14Na2O  
0.05CoO  

と、何やらいっぱい書きましたが、これは黒釉の調合例とその構成物の成分そしてそれをゼーゲル式で表したものです。(計算あってるかな)
 ちなみに大谷津砂とは栃木県市貝町で産出される物で比較的低温で溶けて透明になり、そもそもはやはり益子特有釉薬「並白」の増量剤として使われ出しました。 (「並白」の調合は、大谷津砂 60・鼠石灰 20・寺山白土 10・福島長石 10です。)
 鼠石灰は岐阜県産。赤坂石灰とも言われます。主成分は炭酸カルシウム、釉薬を溶かしやすくする働きがあります。
 釜戸長石も岐阜県産。ケイ酸が多いのが特徴で白濁釉薬に使われる場合が多いです。
 芦沼石は益子産。見た目は大谷石みたいなものですが鉄分を多く含みます。この石だけを使った釉薬が益子柿釉です。
 酸化コバルトは日本では採れません(採れるのかな?)。少量でも効き目抜群で青の発色剤として使われますが大量に使うと黒。ただしとても高いのでこれだけで黒を求めるのはとても贅沢です。
 酸化クロムも全て輸入品。緑色の発色剤です。
 酸化第二鉄はいわゆる赤さび。そもそもの鉄はやはり輸入に頼ってはいるものの、赤さびはその辺にごろごろ。叩き落として擦って粉にして使います。は、昔の話。今は純度の高い製品が簡単に手に入ります。鉄はオールマイティー発色剤。濃さ焼き方で赤、茶、青、黒など様々な色が出せます。
 ちなみに大谷石の主な成分は
SiO2Al2O3MgoCaOCoOK2ONa2O
Fe2O3TiO2Cr2O3
761402033200
で、芦沼石と比べると鉄分が少なくなっています。
黒釉柿流し(つかもと製陶)
 という具合に黒釉を作るのは大変なのです。私もいつも苦労しています。あれこれ微妙に混ぜなければなりませんからね。
 というのはうそ。私の黒釉はもっと単純明快。そのレシピは
 芦沼石50%
 洗い落とし50% です。
 益子の伝統釉薬は柿釉、糠白釉、青磁釉、並白釉、黒釉です。
 いずれも益子で古くから使われている釉薬で、柿釉は単純に芦沼石だけ、糠白釉は主に籾柄の灰、青磁釉は糠白釉に酸化銅を混ぜたもの、並白釉は石灰を使った透明釉、と、近隣で入手できる材料を使った釉薬です。青磁釉に使われる酸化銅は近代技術的な物に思われそうですが、銅を使った品物は更に古くからあって釉薬に使っていたのはその錆。鉄同様焼いて黒錆になったところを叩き落として薬研で擦って。もっと簡単なら胴に発生した緑青を使って。
 さて、黒釉。
 昔々はコバルトとかクロムとかの精製技術が発達していませんでしたから使えるはずもありません。でもそれが取り出せるようになる前から黒釉はあったのです。では何を使っていたのか。
 そう、答えは芦沼石です。
 芦沼石はそのまま焼くと橙色の柿釉です。ただし、この色を出すためにはぽってりと厚く施釉しなければなりません。また、下地に薄い並白を掛けもします。
 でも、芦沼石を粉にしたものを(赤粉と呼ばれます)そのまま使うと厚く施釉する事が出来ません。厚みがあると乾いた時ひび割れしてはがれてしまうのです。だからといって薄く掛けると赤紫っぽい色になります。そこで赤粉を一度素焼きの温度で焼いてやります。するとあら不思議、ぼってり厚く掛ける事が出来る様になるのです。
 でもちょっと厚みの加減を失敗したり、下地の並白が指跡などで厚く掛かっている部分があったり、柄杓掛けの時同じ場所に流し続けてその部分の釉厚が薄くなってしまうと柿釉の発色にはならず黒になってしまうのです。
 そう益子の黒釉はこの現象を利用した物なのです。ただし黒とは言っても綺麗な黒ではなくちょっと気の抜けたような透明感がある黒です。
 柿釉の発色はそれに多く含まれている鉄が表面で結晶化する事による発色です。ですから柿釉の掛かった品物の表面を削るとその下は漆黒の世界です。つまり柿釉を表面に鉄が結晶しない程度に薄めてやればいい。それが元々の益子黒釉です。
 薄めるには土灰(雑木を燃やした灰。昔はかまどや囲炉裏で簡単に手に入りました)を混ぜました。
 おっ、私の黒釉と同じですね。おっと偉そうな言い方になってしまいました。私が昔ながらのまねをしているのです。
 ただし今では土灰が高価なものになってしまいましたので洗い落しを使っています。洗い落としとは施釉時に高台に付いた釉薬をふき取ったものを溜めておいたもの。様々な釉薬をふき取った物なのでその内容はぐちゃぐちゃのブレンドです。大手の窯元ではそれが大量にあるので大部分は捨ててしまう事に。それをもらってきて再利用。う〜ん、経済的。
 さてその黒ですが、やはりあれこれ研究の結果色々科学薬品を加えた黒とは微妙に、いや明らかにその色合いが違います。
 えっ、黒色は黒であって他に色が違う黒があるのかって?。
 はい、あります。
 そもそも、黒色とは何でしょう。
 黒色とは全て、もしくは無し、です。
 色という物はその色をしているのではなく、その色以外の光を吸収してその色の光だけを反射する事によりその色に見えるのです。
 解りにくい表現ですね。つまり赤い物は太陽の七色の光のうち大部分は吸収してしまうけれど赤い光だけは反射するのでその光が目に届く事により赤い物に見えるのです。黄色い物は黄色い光だけ、緑色の物は緑の光だけを反射するから黄、緑に見えるのです。
 この赤、黄、青は色の三原色と呼ばれます。正確にはマゼンタ、イエロー、シアンです。おっ、プリンターのインクの色ですね。
 この三原色以外の中間色はそれぞれを混ぜ合わせる事で表現されます。反射する光の量をそれぞれの顔料で微妙に打ち消す事によって中間色を出すのです。そして三原色全てを混ぜると全ての光を吸収してしまう事になり光が目に届かない、それが黒です。(ただしプリンターのインクは透明度が高いため純粋な黒にならないので別に黒のインクを用意しなければならないそうです)
 三原色にはもう1つ、光の三原色というのがあります。こちらは赤、緑、青で、それぞれの光そのものの事です。洋風(?)に書くとR、G、B。そう、こちらはパソコンやテレビの画面です。パソコンではこの光を出すポッチが1つずつの3個1組で1ドット。それがいっぱい集まって1つの画面になります。で、色を表現する時はそのドットのR、G、Bの明るさを256段階で調整してやります。ですので表せる色の数はその組み合わせとなりますので256×256×256色(暇な人は計算してみてください。どこかで見た事がある数字になるはずです。ちなみに大昔のパソコンはこの色調段階調整が無く点灯or消灯だけだったので中間色を出すのが大変でした。)。で、1個も点灯していない、つまり光が無い状態が黒です。
 おっと話がだいぶ逸れてしまいました。とにかく色々な材料を組み合わせて苦労して作り上げた黒は実に綺麗です。漆黒でありながらそのフラットな表面は艶光して瑞々しく、まさに濡烏。そこに柿釉を流したものはほれぼれするほどの秀逸品です。
 また、この黒の表面を平滑ではなくプツブツにした柚子肌黒もしっとりとしていてとても綺麗。
 一方私の黒は暗黒色。それなりに艶はありますがぽってりした感じ。でも私は好きですよ。
 古くから益子にある黒はこの暗黒色がもう少しぽてっとした感じ。早く言えば野暮ったい黒。元々そういう色なのか私の様な黒が経年変化したのかは解りません。
 ただし、益子古黒は色ムラが少ないように思えます。
 秀逸黒や私黒は釉厚が薄いと憲法黒茶ぽい色になってしまいます。ところが益子古黒はそういった事も無く指跡などもしっかり黒。施釉技術がすごかったのか、今はもう採れない八木岡石(真岡産出)を使っていたからなのか。
 いずれにせよ黒は厚く施釉しなければ出ない色です。しかし、薄く施釉する事で綺麗な発色をする黒もあります。
 それは黒マット。いわゆる呂色です。
 黒マットに関しては市販の調合済みの物を使っていますが、厚く掛けると紫黒ぼくなってしまいます。だからと言って薄すぎると黒鳶な感じになってしまいますが。これを酸化焼成すると良い黒になります。ただ私黒は酸化焼成すると黒紅の金属結晶がポツポツと出来てしまいますので一緒に焼けないのがネックですが。
 単純でありそうで何かと難しい黒。窯出しの時思っていた通りの黒が出た時は本当にほっとし、予想以上の物が出来た時は大いに感動物なのです。

 え〜と、あと日本古来の黒を表す色には何があったかなー。
 それにしても古来日本人の色を表す感覚には凄いものがあって、私みたいに黒だったら黒と黒マット2種類だけで失敗したら茶色くなっちゃったとかギラついちゃったなんて表現しか出来ないのとは大違い。
 と、思っていたけどやはりそれは特別な人たちだけだったのかな。
 私たちは普通緑色の物も青いと表現します。それはその昔日本には色の表現が4色しかなかったからだとか。
 それは、昼の白、夜の黒、血の赤、それ以外の青。
 だから緑色の物も青いと言っちゃう。つい最近までは黄色も青いと表現する地方もあったとか。するとそこでは信号の色も青青赤?
 「い」を付けて形容詞になるのも白い、黒い、赤い、青い、だけで緑い、黄いとは言わず緑の、黄色の、となるのもその名残だとか。
 はい、もちろん私も特別な人たちではなく昔ながらの普通日本人です。

 撮影協力 益子焼最大の窯元つかもと


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