大舞台で力を発揮するために
躾の目的
大舞台に立って力が出せなかった生徒に
これから自律していこうという意欲を高める授業
同僚に薦められて読んだのが、この本であった。野村前監督の短い言葉が書かれてある読みやすい本であった。そこには、プロの世界で活躍してきた珠玉の言葉が書かれてあった。学校行事や部活動の大会は、中学生にとっては大舞台になる。そこで、大舞台に立つ心構えとして、野村さんの言葉を紹介しようと考えた。
授業をしてみて、実績のある野村さんだからこその説得力のある言葉が、生徒に響いたのだと実感した。
資料 「野村の流儀」 野村克也著 ぴあ株式会社
●ねらい
野村さんの言葉を知ることにより、自分で自分をコントロールすることの大切さを再認識する。(1−B 自律の精神)
●準備するもの
・「野村の流儀」 野村克也著 ぴあ株式会社
・生徒が板書や意見を書く紙
●授業の実際 (1年生)
板書する。
ホームラン657本(歴代2位)
1988打点(歴代2位)
2901安打(歴代2位)
戦後初の三冠王になった
「打点とは、その人が打ったことによって何点入ったかということです。安打とは、ヒットやホームランの数です。三冠王とは、ホームラン数、打点、安打の三つが1位だったいうことです」と説明をした。
1.この人は誰でしょうか。
■その人が野球界で素晴らしい成績を残したということを印象づけ、知らせる発問である。
王さん、長島さん、張本さんなどの名前が出た。ヒントとして「現役の監督(授業当時)です」というとすぐに「野村監督だ」という答えが返ってきた。
「野村の流儀」p254を板書する。
大舞台が選手を育ててくれる。
逆に言えば、
大きな舞台を経験しないと、飛躍はない
プリントに写すように指示をする。全員が書き終わったのを確認して次に進む。
2.みんなにとって大きな舞台とは何でしょうか。今までとこれからの中学校生活に分けて考えましょう。
■板書の内容が、生徒にとっても関係する話題だということに気づかせ、残りの中学校生活へ目を向けさせる発問である。
○今まで
・合唱コンクール
・小学校の卒業式
・各種の大会
○これからの中学校生活
・部活動の大会
・卒業式
・入学試験
3.次のカッコに入る言葉は何でしょうか。
■勝負の要素として人間性が大切であると知らせる発問である。
大きな舞台になればなるほど、
勝負は技術だけにとどまらない。
( )そのものの対決になる。
前掲書p122
全部紙に写すよう指示をした。
すぐに答えが書ける生徒と、悩んで鉛筆が止まっている生徒に分かれた。普段考えもしないような問題なので意外だったようだ。
・運
・夢
・気迫
・気持ち
・意志
・自分と(数人)
正解が「人間」と知らせると「惜しかった」という声が聞かれた。
『野村さんは約25年間プロ野球選手として過ごしました。現役時代に大打者だっただけでなく、監督になってからは日本一に3回もなるなどずっと勝負に関わってきた方です。その方が「勝負は技術だけではなく、人間そのものの対決」だと言っているのです。人間性がいかに大切かというのが分かったでしょうか』と生徒に問いかけた。生徒達は神妙な様子で話を聞いていた。
4.次のカッコに入る言葉は何でしょうか。
■2で出た人間性の、基本となるしつけがまずは自律だということに気づかせる発問である。
しつけの目的は、
( )を支配する人間
をつくること
前掲書p67
全部紙に写すよう指示をした。
「しつけって何ですか」と生徒から質問が出たので「あいさつや身だしなみなど人間として基本の部分です。漢字では躾(身が美しい)と書く」と教えた。
・体
・他人
・自分
・自分自身
『正解は「自分で自分」です。自分や自分自身と書いた人は丸をつけましょう。間違った人は正解を書いておきましょう』と言って赤で直させた。
「人間性の基本となるしつけも、結局は自分で自分を支配する、言い換えれば自分で自分をコントロールするということなのですね」と説明をした。
5.授業の感想を書きましょう。
・いろいろなことが分かってよかった。自分をコントロールできるようにしたい。
・野村さんの言っていることは、今の自分たちにあっている気がするのでよいと思います。
・野村さんの言葉は、私とは違う考え方をしていて「なるほど」と納得する言葉ばかりでした。私もこれからいろんな大舞台を経験すると思います。その時は「イヤだな」と思わずにやっていきたいです。
・野村さんがおっしゃてたとおり自分で自分をコントロールすること、自分と対決すること、常にその時の自分の結果を上回ること、その結果だけにとどまらないことが、自分と対決することだと思う。
・いろんなことはまず、基本からということがわかりました。まずは自分をきれいにしてから!!
・この言葉は全部大事だなと思いました。言われると気づくけど、言われないと忘れてしまっていることだなと思いました。これは全部「自分」を考え改める言葉だと思いました。
生徒が感想を書き終わってから、教師がまとめの説明と野村さんの言葉を紹介した。
「みんなはこれから大舞台、小舞台といろいろ立って、緊張すると思います。でも飛躍できるチャンスだと思いましょう。その時大切なのは自分で自分をコントロールすることです。そのために、普段からしつけ、自分で自分を支配することが大切なのです。難しい言葉で自律と言います(「自律」と板書する)。なかなか難しいことですが、頑張っていきましょう。」
●紹介した文章
良い仕事をするには、
「己を知ること」が大切。
そのうえで、さらに相手を圧倒する
何かを考えることが大事
前掲書p255
「自分は運が悪いなあ」と嘆くのは簡単。
しかし不運(よい結果が出ない)には必ず、
それなりの理由がある。
そして幸運にも、それ相応の過程がある
前掲書p211
感じる人間が勝ちを制する。
感じないことは罪であり、鈍感は人間
最大の悪
前掲書p152
●授業を終えて
本実践は中学1年生12月の実践であるが、小学校や中学校入学後に行事や大会への参加という経験があったり直前に校内合唱コンクールがあったので、その経験を思い起こさせた発問2が効果的であった。
大舞台の経験でこんな風に変わったという具体例として、次の文章が参考になる。
『1996年のオールスターに当時ヤクルトの稲葉篤紀が初出場できたのは、オールセントラルを率いる野村監督の監督推薦だった。「今年がいいチャンスやろ、いい経験になるわな」との思いから実現した。(中略)オールスターという大舞台での経験が生きた稲葉は、順調に成長し、FAで移籍した日本ハムでは2006年、チームを44年ぶりの日本一に導く活躍で日本シリーズMVPを獲得。2007年も首位打者に輝きリーグ連覇の原動力になった。(前掲書p111下)』
「しつけ」については、生徒自身に自分を見つめさせ、どんな自分への「しつけ」ができるようになってきているか成長を確認させる発問や指示があると、自分に視線を向けて授業を完了できるだろう。