道徳授業記録
ナンバーワンとオンリーワン

 授業を受けた生徒が「自分の命を大切にしなきゃ」と感想を持つ
授業です。「今までで1番になったことがありますか」という問い
に答えられない生徒も,受精とその確率を知ると「自分も1番をと
ったんだ。だから存在しているんだ」と気づきます。また先祖の人
数を考えて,その中の1人でもいなかったら自分が存在しないとい
うことを知ると,命の継続についても気づきます。

●ねらい
 自分がナンバーワンだったので存在していることを知り,その存
 在がオンリーワンであることを再認識し,命の大切さについて考
 える。
 (3−2 生命の尊重)

1.今までの人生で1番をとったことがありますか。
■4の伏線の発問である。

2.今までの人生でこれはすごいと思う1番は何ですか。
■1で「ない」と答えた生徒にはもう少し思い出すよう伝える。
・前屈
・指まげ
・部活動の県大会
・理科展覧会
・登校時間
・運動会のかけっこ
・塾のテスト  など

3.何人の中で1番だったのでしょうか?
■1番になったことがない生徒には,多い生徒は何人になるのか予
 想させる。
 A 2〜10 8人
 B 11〜100 12人
 C 101〜1000 3人
 D 1001〜10000 0人
 E 10001〜50000 1人
 F 50001〜   0人
 Eに挙手した生徒聞いてみると,塾のテストで約40000人中1位
になったことがあるということだった。

4.実は,このクラスのすべての人は1位になったことがあります。
  何だか分かりますか。
■深く考えさせなくてよい。ここで正解が出た場合には,Fに進む。

5.あなたは何ですか。
■D〜Fはテンポよく進めていく。
 自分の名前を言う生徒もいたが,「そうじゃなくて」と言うと
「人です。」と答えが出た。

6.いつから人ですか。
 3人に聞いたが,3人とも「生まれたときから」と答えた。

7.では,生まれる前は何でしたか。
 「やっぱり人」という答えが出た。
 ここで,生まれる前の受精の仕組みについて説明する。
 人間ができるためには,卵子と精子が必要です。卵子と精子が受
精して命が生まれるのです。男性は1回に3億の精子を射精します。
受精できるのはその中の1つです。つまり,2億9999万9999に勝って
1番になったのです。
 2億9999万9999に勝ったという事実を知らせると,生徒達は皆驚
いていた。

8.感想を書きましょう。
■感想を短めに書かせる。ここまでが1つの区切りで,精子(自分)
 がナンバー1だったから存在しているのだと気づかせる。

 プリントを配り,次の作業をさせる。
1)○を16個書かせる。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○(略)

2)○と○の間に1つとびで線を入れる。
○―○ ○―○ ○―○ ○―○(略)

3)それぞれの横線の下に線を引き○を書く。
○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○(略)
 ○   ○   ○   ○

4)それぞれの○を線でつなぐ。
○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○(略)
 ○―――○   ○―――○

5)それぞれの横線の下に線を引き○を書く。
○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○(略)
 ○―┬―○   ○―┬―○
   ○       ○

6)上記の内容を○が1つになるまで続ける。
○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○
 ○―┬―○   ○―┬―○   ○―┬―○   ○―┬―○
   ○───┬───○       ○───┬───○
       ○───────┬───────○
               ●
 次のことを説明する。
 自分(●)は卵子と精子からできたのだから,母親と父親がいま
す。上の2つが母親と父親になります。その母親も,精子と卵子が
受精してできたので,その父親と母親がいます。
 こう考えていくと,5代前までには,何人の人がいたでしょうか。
答えは62人です。
 10代前で2046人,12代前で8190人,13代前だと,16382人と1万人
を越えます。1代が30年と考えると約400年前,江戸時代はじめまで
には1万人以上の人が必要なのです。
■自分の命には,多くの祖先が関わっていることに気づかせる説明
 である。

○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ×┬○ ○┬○
 ○―┬―○   ○―┬―○   ○―┬―○   ×―┬―○
   ○───┬───○       ○───┬───×
       ○───────┬───────×
               ×

 もし,この中で1人の人がいなかったらどうなるでしょうか。
(と言って一番上の列の一つに×をつける)
 その子ども,子ども・・・といいながら×をつけていく。自分に
も×をつける。
 自分が存在していないことになります。1万人と聞くと多く感じ
ますが,その中のたとえ1人でもいなかったら,今のみんなはいな
いことになります。

 逆に考えましょう。
 今の自分がここ(●)だとします。もしも自分がいなくなったら,
未来の人はどうなるでしょうか。いなくなってしまいますよね。
■ここは軽く触れる程度。子孫を残さなくてはいけないという雰囲
 気にはしない。子孫を残すかどうかは当事者が決めることだから
 だ。あくまでも,未来の命を担う1人の可能性があるというスタ
 ンスで臨む。
○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬○ ○┬● ○┬○ ○┬○ ○┬○
 ○―┬―○   ○―┬―○   ○―┬―○   ○―┬―○
   ○───┬───○       ○───┬───○
       ○───────┬───────○
               ○
 次の説明をする。
 話は戻ります。もし受精するときに,違う精子が受精していたら,
やはり自分が生まれていたでしょうか。いないでしょう。
 3億の精子の中のたった1つから自分が生まれました。他の
2億9999万9999の精子だったら別の人が生まれていたでしょう。

9.感想を書きましょう。
■8以降の感想を短めに書かせる。ここまでが1つの区切りで,自
 分がオンリー1の存在だと気づかせる。

10.授業全体を通した感想を書きましょう。
■8,9と感想を書かせているので8,9で書いた以外のことを書
 くように注意する。
・今日,全員が1位だったことが分かった。ぼくも,1位になった
 一人でよかった。
・自分は,3億の中の1人に選ばれたのだから,自殺とかで死んで
 しまうともったいないと思う。
・3億個の中で自分が生まれたのは1個の精子だけなのに驚いたし,
 すごいと思った。
・今日の勉強をしてなんだか29999999に勝ったから自分はすごいの
 かな?と思った。
・29999999のナンバー1はすごく,すごいことだと思います。自分
 はすごいんだな〜と思いました。


●授業実践を終えて
1.追実践にあたって
 授業は2つのパーツでできている。
 まずは前半部分で,3億の中の精子で1番をとったからこそ自分
が存在しているということを知る部分。性教育の内容だが,生徒自
身が今までで取った1番と対比的に扱うことで,生命誕生における
1番のすごさにインパクトが出てくる。「ナンバーワンをとった自
分ってすごいな」と生徒に思わせることが大切である。
 次に後半部分で,命の連続性に触れる。自分の命が,過去や未来
の多くの命とつながりを持っていることを意識させる。図を使って
視覚的に訴えるので,数に弱い生徒も分かりやすくなっている。ま
た,3億の中の別の精子が卵子と受精していたら,自分とは違った
人間が誕生していたことにも触れる。どれでもよかった3億の精子
ではなく,3億の中のたった1つの精子。それが,今の自分になっ
たというオンリーワンについて意識させる。
 SMAPの「一つだけの花」を使ってもよいだろう。オンリーワンに
ついてくどくどと説明しなくとも,歌を聴くけばよく分かる。

●資料
 心のノート(文部科学省)p77でも,生命の連続性について触れ
ている。

●参考資料
NHKスペシャル 今日の小宇宙 人体 1生命誕生
(NHK エンタープライズ21)