故郷は何処


(二十一)


私の故郷は何処でしょうか。
私は昭和21年、16歳で台湾から引揚げて参りました。
父は若い時代に故郷を出ており、母は、親が台湾に渡る
船上で出生しております。

引揚げ以来58年、大連引揚者の夫との生活も含めた星霜
の中での転居は、ざっと数えて十四回、都府県にして五都県
になりましょうか

勿論本籍地はあります。しかしそれはあくまでも戸籍上のも
のであり、流浪の民のように、そして台風のように
九州から北上して、四十代も半ばにして漸く終の棲家を得て、
現在の地に落ち着きました。

「此処で生まれて此処で育って」と仰る方が羨ましい。

故郷というのは、何時帰っても心を癒してくれる処だと云わ
れます。

私の故郷は何処でしようか。

父は昭和38年に69歳になったばかりで彼岸の人になり
ましたが、それから33年後、母は95歳で天寿を全うし
ました。

内に烈々たる気概を秘めつつも、決して大声も出さず、
「自分が耐えれば良い」で一生を貫いた母でした。

母の存命中は、「母の座る部屋」が私の故郷でした。

母も消えた今、私には帰るべき故郷はありません。

幾山河越えて、今、私の座すこの終の棲家が、私の子供達の
故郷なのでしょうか。

子供達の為に、少しでも長く「故郷」でいてやりたいものです。


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