故郷は何処 |
私の故郷は何処でしょうか。 私は昭和21年、16歳で台湾から引揚げて参りました。 父は若い時代に故郷を出ており、母は、親が台湾に渡る 船上で出生しております。 引揚げ以来58年、大連引揚者の夫との生活も含めた星霜 の中での転居は、ざっと数えて十四回、都府県にして五都県 になりましょうか 勿論本籍地はあります。しかしそれはあくまでも戸籍上のも のであり、流浪の民のように、そして台風のように 九州から北上して、四十代も半ばにして漸く終の棲家を得て、 現在の地に落ち着きました。 「此処で生まれて此処で育って」と仰る方が羨ましい。 故郷というのは、何時帰っても心を癒してくれる処だと云わ れます。 私の故郷は何処でしようか。 父は昭和38年に69歳になったばかりで彼岸の人になり ましたが、それから33年後、母は95歳で天寿を全うし ました。 内に烈々たる気概を秘めつつも、決して大声も出さず、 「自分が耐えれば良い」で一生を貫いた母でした。 母の存命中は、「母の座る部屋」が私の故郷でした。 母も消えた今、私には帰るべき故郷はありません。 幾山河越えて、今、私の座すこの終の棲家が、私の子供達の 故郷なのでしょうか。 子供達の為に、少しでも長く「故郷」でいてやりたいものです。 |