Happy Birthday…… 今日はあの娘のBirthday!!まじ☆アン編 |
6月15日 リアン=エル=アトワリア=クリエール編 「♪はっぴばーすでーとぅ〜ゆう〜っ……よし! リアン、蝋燭を消せ!」 すぅっ……ふぅぅっ!! 健太郎さんに言われるまま、ケーキの上にゆらゆらと移ろう炎が灯った色とりどりの蝋燭20本を一息で吹き消す。 すると同時に、ぱちぱちと拍手がわき起こった。 「誕生日おめでとう、リアン!」 結花さんが、泰久さんが、そして、健太郎さんがお祝いしてくれる。 「結花さん、泰久さん、健太郎さん……、ありがとうございます」 私は、私が出来る精一杯の笑顔で、感謝と歓喜の気持ちを表そうとした。 日本では誕生日の時は、(もしかしたら他の国でもそうなのかもしれないけど)こういう風にケーキに歳の数だけ蝋燭を立てて、当事者である私が吹き消す、ということが恒例らしい。 健太郎さんの誕生日の時はしなかったのだけれど、結花さんの時にはそういった手順を踏んでいた。どういうわけか男性はそういったことはあまりしないらしい。 「よし、ケーキを切ろうか」 「今回は、いつもより半端じゃなく気合い入れたからね〜」 「あまり気合いを入れすぎて最初失敗ばかりしてしまっていたがね」 じろりっ!! 「……これはすまなかった」 誕生日を家族と過ごさない……姉さんと過ごさないことは生まれて初めてだった。 ……姉さんがグエンティーナに帰ってからもう半年が経つ計算になる。 姉さんがいなくなったときは、1日でその場にいられなくなって追いかけていったものだったのに、皆さんが……健太郎さんがいてくれることが今は、寂しいと感じることも少なくなった。 でも、今でも。健太郎さんがいてくれても、結花さんがいてくれても。姉さんのことを考えると、会いたくて仕方がなくなってくる。 そんなことを考えているときだった。 「!?」 一瞬で突き抜ける違和感。 この世界では異質な、そう。 魔法!! 「っ!!」 考え事をしていたため一瞬出遅れてしまい、結局自分の周りしかレジストできない。 「あっ……」 三人とも、動かなくなっている。 いや、蝋燭からわずかに立ちこめる煙など、すべてが止まっている。 時間停止の魔法だ。 そしてそれと同時に、光の球が空中にふっと浮かび上がると、ぼやぁ、と人の映像が出てきた。インスタントヴィジョン。だけど、本人の手のひらから浮かび上がらせることはたやすいけど、手のひら以外のところで、しかも異次元からと思われるものを、正確に私のいるところに浮かび上がらせることは並大抵の魔力では出来ない。 しかも時間停止の魔法まで上乗せしているのだろうか? そんなはずはない。 二つ以上のここまで高レベルな魔法を重ねて使用することは、術者に大変な負担がかかるし、ここまで正確に成立させることは事実上は不可能だと思う。 「あ!?」 そんなことを考えていると、それは、だんだんと顔を正確に映しだしてくる。 「おじいちゃん……」 『おぅ、久しぶりじゃな』 「!?」 インスタントヴィジョンどころではなかった。ちゃんとおじいちゃんは動いているし、話しかけてくる。こんなものは見たことがない。 『リアン、今日で20歳じゃな、まずはおめでとうと言わせてもらうかの?』 「は、はい……ありがとうございます……」 深々と頭を下げながら言う。 『まぁ、言いたいことは山ほどあるが、時間停止担当の息子がいまいち頼りないのでな……用件だけ言うかの』 「?」 『帰ってきなさい、こちらに』 「!?」 『お前が生まれてから、初めて聞いた我が儘、叶えてやりたいと思うてはいたが、やはりお前がいない生活には耐えられんわい。それに』 「……」 『お前の身体は、お前一人のものではない……わかるじゃろ?』 「……」 魔法で統治されている国グエンティーナの第二王位継承者。そんな気づかないフリをしていた私の肩書きがいきなりのし掛かってくる。 そして、おじいちゃんはとどめとばかりに、 『それにな、スフィーもお前と会いたがっているしの』 と言った。 「……」 『どうじゃ? 帰ってこんか?』 「……おじいちゃん……、ごめんなさい。私は戻りません」 『何故、じゃ?』 「私……健太郎さんと誓い合いました。二人で一生懸命幸せになる、って。私、そう言われたときすごく、すごく嬉しかった……。健太郎さんから離れたくない。ずっとずっと一緒にいたい!!」 『儂よりも、お前の父よりも、母よりも。そしてスフィーよりも、か?』 「!!」 『どうなんじゃ?』 「そんなの……比べられる訳ないです……でも」 『でも?』 「想いは、おじいちゃんの魔法を回避したあのときと変わっていません。健太郎さんから離れることなんて考えたくもありませんから」 そう、忘れもしない12月30日。 私は確かに帰りたくないと言った。家族より健太郎さんがそばにいて欲しいと思った。願った。叶ったときとても嬉しかった。 そしてそのことに、後悔もしていない。 にこっ そのことを伝えるように、私は、出来うる限り思い切り微笑む。 『……そうか……。わかったから、泣かないでくれ。孫の涙なんぞ見たくないからの』 「えっ!?」 目をごしごし擦ってみると、確かに指先が湿っぽい。 後悔はしていない。でも、やっぱり家族に会いたい気持ちは今でも持ち続けている。 『リアン!』 「!?」 この声は……姉さん!? 『待ってなさい! あたしがすぐ遊びに行くから!!』 「……」 『みんなに会いに行くから! そのときは結花にホットケーキたっくさん焼いて貰うから30HC位は用意しておきなさい、ってけんたろに言っといて!!』 懐かしくて、暖かくて、頼もしくて、心に光が灯るような姉さんの声が私を嬉しくさせてくれる。 「……はい……はい、はいっ! ちゃんと言っておきます……待ってます。ずっとずっと待ってますから!」 そんな私たちのやりとりに、やれやれ、といった表情を見せる。 『まったく……この娘も言うてくれるわい。次元移動の初歩の初歩すらまったく出来てないではないか?』 『うるさいわよおじーちゃん! この天才にかかれば、すぐぜーんぜん問題なくなるんだから!! それとリアン!!』 「?」 『ずっとじゃなくて、すぐよ、すぐ!! すぐなんだから!!』 「はいっ!」 にこっ 『……やれやれ、儂にもそれくらいの笑顔を見せてくれてもよかろうて……じゃ、そろそろ、息子が限界らしいし、退散するとするかの?』 「えっ……?」 『それでは、な』 「……おじいちゃん…………また、ね……」 『……うむ、リアンも元気でな……』 そういうと、おじいちゃんはす、と消えた。 「あれ? リアン、いつの間に移動したんだ?」 健太郎さんも、結花さんも、泰久さんも、先程までのことを気付くはずもなく、動き出したとき、そんな質問を投げかけた。 「健太郎さん」 でも、私は質問に答えず、にこにこしながら言う。 「ん?」 「……すぐ行くから、30HC分くらいは用意しておきなさい、だそうです」 「?? ……あっ!?」 気がついた様子の健太郎さんに答えるよう、私は、にこりと微笑んだ。 2月21日 牧部なつみ編 不思議な気分だった。 私を捨てたと思っていた。そして憎んでいた対象だったはず。 その人が、震えながら私を一生懸命抱きしめている。 私の名前を繰り返し呼んでいる。 ”ごめんね”って謝ってばかりいる。 そんなことをしても今までの事実は変わる訳じゃないはずなのに。 でも、私はその抱きしめる手を払いのけることが出来なかった。 それどころか、その人に身を委ねるあまりの心地よさにゆっくりと溺れていく。 そして、いつの間にか、私は口にするのだった。 「おかあさん」 と。 ダイニングルームのテーブルには、Happy Birthday!と綺麗な文字が書かれた、何号なのか解らないほど大きなHoney Bee特製ケーキと何種類かのジュースとお酒が用意されていた。こういったケーキにはお約束の蝋燭も、ちゃんと私の歳の分だけ刺さっていた。 蝋燭にあかりを灯し、電気を消す。そして私が吹き消すと、まだ残っていたのか、健太郎さんとスフィーさんでクラッカーを3つ同時にならした。 「やっほ〜、ケーキケーキ! これだけでもここへ来た甲斐があるってもんだよね〜」 「そうよ。スフィーちゃんも食べるって言うから、張り切って作っちゃったんだから!」 「さっすが結花! それじゃ、いっただきまーっす!!」 「あ、バカ! 主賓が食べる前に箸つける……じゃない、フォークつけるヤツがあるか!」 「ほむほむ……うはぁ、おひひい〜」 「姉さん……美味しいのは解りますが、もう少し……」 リアンさんには、今の言葉が通じたらしい。 「お前……でかくなってもやることは変わってないなぁ」 「あっはひはへへひょー、ほふはひひょひゅはんひはははふはへはいははい? っへ、ひはん、はふひへ!」 「あ、はい……。”あったりまえでしょー、そんなに極端に変わる訳ないじゃない? ってリアン訳して!”だそうです」 「あーわかったわかった、わかったから、食い終わってからしゃべれ」 「む〜っ」 スフィーさんの食べっぷりも相変わらずらしい。 でも……。 「「あの……」」 「「あ、先に……」」 「「あ……」」 「「……」」 この空間をどうにかしないと……。 お母さんと私に、妙な空間が出来上がってしまった。 というより、話し出そうと思うのも同じなら、変にゆずってしまうのも同じ。 どうにか、しないと……。 「ふふっ……」 「え……?」 と思っている矢先に、お母さんが笑い出した。 「いい人そうね。スフィーさんやリアンさんに聞いたとおりの人みたいで良かったわ」 「あ……」 そう言われて慌てて健太郎さんを見ると、ぎゃーぎゃーと結花さんと何か言い争いをしていた。 「私ね。もし我が儘が許されるなら……、貴女をグエンティーナに連れていこう、と思ってたわ」 「え?」 「もともと、そんな資格もないのも解ってる。母親を放棄してまでグエンティーナに戻ったことも許されることじゃない。でも、せめて、母親として何かはしたいと、ずっと思ってた」 「随分、勝手な言い草……」 私は乱暴な言葉をぶつけたが、彼女はどうするでもなく「そうね。すごく身勝手」と答えきった。 「でも、そう思ってたし、言わないよりは数倍いいから」 「そう」 たぶん、ぶっきらぼうな答え方だったと思う。それでもお母さんはにっこりと微笑むとちらりと健太郎さんの方を見る。 ちょうど結花さんの抉るようなパンチをかわしているところだった。 「連れて帰るわけにも行かないわね」 「……そうね」 「家族って血の繋がりだけじゃないもんね。もともと夫婦も血縁だけみれば赤の他人だし……ね」 「そうね」 「家族って、自分が一番心地よくいられる居場所、といえれば、最高、かな?」 「……」 なにか、以前。似たようなことを考えていた気がする……。 「貴女にとって、一番良い居場所、ありそうだもの……ね」 「……うん」 「それで、孫はいつ?」 「げほっ?!」 ……危うく、口に入っているものを全部吐き出してしまいそうになったけど、ぎりぎりで面目を保つ。 「な、何を……」 「もっと正直に言うとね。スフィーさん達にもっといろいろ聞いたから」 「なんて!?」 「この娘は……それを私から言わせるつもり?」 も、もしかして……何からナニまで全て筒抜け!? 「それで、これから一ヶ月。品定めさせて頂きますから」 「え!?」 「次元空間転移の魔法は、一ヶ月の休暇を置かないと魔力が足りなくて出来ないの。で、一ヶ月間、ここにスフィーさんと一緒に泊めていただくことになりましたので」 「えーーーっ!?」 ごっ!! それと同時に、鈍い音が響く。そこには、結花さんの何かを喰らって後頭部を押さえながらもんどり打って倒れる健太郎さんがいた。心なしか、顔が見る見る青ざめていく。 「あれ? ……もしかして、死んだ?」 可愛い顔で物騒なことを言う結花さん。 「一ヶ月退屈しそうにないわね」 あ、あの……。 「結花ぁ……けんたろ、息してない……」 「ほ、ほんとに?」 「……くすくす」 「しっ! リアン、笑うなよ!」 ぷちっ あ……音した。すごい音。 「あ、あんた……もういっぺん死んでこーーーい!!」 「やなこったぁ〜〜」 あ〜ぁ……また始まった……。 でも、こんな誕生日も、あっていいかな? 「これからでもいいから……」 そういうと、お母さんはこういった。 「少しだけでも、取り戻したい」 「……」 「だから、宜しく、ね」 「……そう」 ちょっとだけ、嬉しさがこみ上げる自分に少し呆れながら拗ねたように答える。それに合わせるように、お母さんは、ちょっとだけ、微笑んだ。 ……スフィーさん。 良くも悪くも、こんなにすごいバースディプレゼントは初めて。 ……ありがとう。 |