Leafお約束劇場 あの娘の憂鬱 東鳩編 |
神岸あかり編 今日も寝坊ギリギリまで眠っている浩之を起こしに、浩之宅まで迎えに来るあかり。しかし、今日はいつもと趣が違った。 「ふ、ふごご〜〜っ!! ふごごっ!!」 鳴き声(?)のようなあかりの声が響く。 「うーん…あかり…オレの安眠を邪魔するな…あ?!」 がばっと起きあがる浩之。パジャマを着たままで玄関に飛び出すと、泣き顔のあかりが立っていた。 「ふ、ふごおっ、ふごごおっ…」 「あ、浩之ちゃん、おはよう、じゃ、ねーだろ? 何だそれは? くまか?」 おおっ!! 意味通じてるぞ!! さすが16年一緒なのは伊達じゃないな!! 書いている作者でさえもわからないのに!!(爆) 「ふごおっ、ふごごっ、ふごっ、ふごごっ」 「うーん、タイトル通り、お約束な…」 「ふごごっ、ふごっ、ふごふごっ…」 「学校、休んだ方がいいんじゃねーのか?」 「ふごおっ、ふごごっ、ふごごごっ…?」 「……ああ、たぶんな」 「………ふごっ」 「まあ、一日寝てれば治るって。今日は一日寝てろ」 ―――そして翌日。 今日も寝坊ギリギリまで眠っている浩之を起こしに、浩之宅まで迎えに来るあかり。しかし、今日もいつもと趣が違った。 「きゃん! きゃん! きゃうぅん!」 鳴き声(?)のようなあかりの声が響く。 「うーん…あかり…オレの安眠を邪魔するな…あ?!」 がばっと起きあがる浩之。パジャマを着たままで玄関に飛び出すと、泣き顔のあかりが立っていた。 「くうん、くうぅん…」 「…………今度は犬かよ…」 「くうぅぅぅぅん……」 このとき、浩之はあるどす黒い感情に駆られた。 「…………………お手」 と浩之は右手を差し出す。そして、ごく自然に、ぽん、と、あかりは左手をその上に置いた。 「?!」 あまりに自然にとった自分の行動に驚くあかりとそれとは対照的になんだか一人で盛り上がる浩之。 「おおおっ!! これぞ完璧!! そうだよ、これだよ!! これをオレは求めていたんだ!!」 「くううぅん…」 そして浩之は、学校へ行くのも忘れて、しくしくと泣いているあかり犬(ぉぃ)と遊びほうけるのだった……。 長岡 志保編 「♪ぶら〜んにゅ〜は〜 今ここからはじまる〜……」 夜、練習のため歌いまくる志保。相変わらず歌手のような素晴らしい歌声だ。 「♪きみにと〜ど〜け〜 てれぱすぃ〜」 歌いきった後、不気味な笑みを浮かべる志保。 「ぐふふ……この曲は完璧ね……セ○カラでも1000点取れる自信があるわ。よっし!これで次のPS版も歌いまくるわよぉっ!」 しかし、不幸は彼女を襲った。 「えええええっ!? PS版は『Feeling Heart』ですってぇ!? い、今まで練習してきたのは一体……。くうっ、見てなさいよ〜!!」 彼女は嗚咽しながら、一直線に駅まで走っていった。 そして翌日、志保は学校を休んだ。 『次のニュースです。本日未明、兵庫県伊丹市にあるゲーム会社”リーフ”に女子高生が押し入り、人質を取って立てこもっております。犯人の要求は、自宅までの交通費とPS版ToHeartオープニングテーマの差し替えで……』 「へぇ、最近の女子高生は過激だなあ……」 雅史は、TVを見ながら遅めの夕食を摂っていた。 『あっ……、只今入った情報によりますと、先程警官が突入、犯人が逮捕されたそうです!! 現場の橋本さん??』 『はい! こちら現場です! あっ、今犯人が連行されています』 画面には全身にモザイクが入っている犯人が映し出されている。 「……………あれ?」 モザイクが入りながらも、犯人の靴、制服、そして髪型がなんとなく……。 「明日から、平穏な日々が送れそうかな?」 雅史、相変わらずマイペースなヤツ……。 保科 智子編 えー、あー、その〜〜…… 神戸の話し方が全くわからないのでパス!! 「アホかぁっ!!」 すぱあああああああああああああん!! かとぱんは、特製ハリセン『ともこ7号』によって星となった。 「ふん、もう帰ってくんなやっ!」 嗚呼、たぶんもう間違っている……。 が、ミスを覚悟して……。 ………… パソコン実習室にて(そんなのあるのか? ってのは却下(爆))。 「なあ、委員長。アイコラ、って知ってるか?」 「……いや、知らへん。何や?」 「芸能人の顔だけ張って、他はその辺のグラビアから色っぽいやつとか、裸のやつとかを合成する、アイドルコラージュ、略してアイコラ、ってのがある、そこでだな……」 パソコンのディスプレイに、ぱ、と雅史の写真がでてきた。 部活の時に取ったであろう、目が半開きで、疲れている様子だ。見方によっては、妙に色っぽい。 「何、男の写真なんか取り出しとんの? ……これ、佐藤君やんか? まさか不純同姓交遊しとるんか?」 「んなわけあるか。いいか、これにな……」 ディスプレイに写る雅史に、白いタオルを頭に巻き付けた写真を合成する。 「?」 「それで、この、胸がでかい写真をこう合わせると……」 「??」 「どうだ?」 「……いや、何が言いたいのかわからへん」 「いや、これ、どこかで見たことあるなー、と思ってたら、委員長がうちの風呂場使ったときの表情にそっくりだなあって……」 「……アホらし」 くる、ときびすを返すと、すたすたとどこかへ行ってしまった。 「……あれ? そうか? なあ、ディスプレイの前のおまえ、どう思う? な、あのCG見たとき、雅史の胸揉んでるよ〜とか、ツッコミ入れたくなかった??」 すると、なんともすごい形相の委員長が、漫才でよく使う例の獲物を持って帰ってきた。 「……そんなにツッコミ欲しいんか? ほんなら……骨の髄までしみこませたる!! 『しょーもないことすんなやっ!!!!!』」 智子の炎のツッコミ!(ハリセンフルスイングver.) すぱああああああああああああああああああああああん!!!! 浩之は、特製ハリセン『ともこ7号 改』によって星となった。 「ふ〜〜。……で、ディスプレイの前のみんなは、どう思っとんのや? そんなことあらへんよな?」 そういうと、カメラ目線でにっこり、と満面の笑みを浮かべた。 が、すぐさま、ハリセンに不気味な表情で目を向ける。 「……最近、このハリセンにも血ぃ吸わしとらんからなぁ……」 にやり、と笑う彼女はもはや普段の委員長とはかけ離れた存在だった……。 ・智子にハリセン 元々強いものが、何かをもってさらに強くなる様(一般:鬼に金棒)。 (同)千鶴に出刃 (同)由宇にハリセン (同)レミィにエアガン (反)詠美に教科書 〜〜かとぱん書房刊「葉っぱことわざ大辞典」より抜粋〜〜 PS 星になりながら彼は思った。 (そういえば、あのハリセンの元祖ともいえるチャン○ラトリオは今?) ……浩之よ、おまえ歳いくつなんだ?? 宮内レミィ編 「ヒロユキ、今からゲームセンターに行かナイ?」 「お?」 (そういえば、以前、ゲーセンに行ったときがあったな。そのときはシューティングをやらせてみたが、これが全然出来ない。本人が言うには、「やったことがない」だそうだ。でも、また行きたいだなんて……、やっぱり、あんなのでもエアガン(もちろんアメリカ版だ)でさえ撃てない日本では貴重なのかもな) 「ああ、いいぜ」 「ヤッタ! シホから聞いてやってみたいゲームがあるの!」 「ふ〜ん……」 …………… 「ま、ま、まさか……これか!?」 「ウン」 大画面の完成型筐体の前に立つ。前には、6発充填リボルバーのモデルガンが刺さっていた。 『The Hou×e of The D○ad』、しかも初期版だ。 (説明しよう! このゲーム、最初は、ゾンビから流れ出る血は緑でなく赤だったのである! しかし、あまりにそれはまずいということで、初期型は回収、緑の血が出る後期型を出したのだが、結構チェックが甘く、初期型は結構そこかしこに残ってしまっていたのだった!!) (こ、これはいくらなんでもまずいだろ……) 「な、なあ、レミィ、どうせ撃つんなら、あっちのかわいいやつにしねーか……うっ!?」 浩之の身体に冷や汗が出る。 なぜなら、次々と倒れるデモプレイのゾンビを見ながら『あの目』を輝かせる、豹変レミィになっていたからである! 「苦苦苦(くくく)……、血……、撃っテ、撃っテ……ゾンビの頭を撃ち抜いテ……怪怪怪(けけけ)……殺せばいいのネ……」 (そろ〜っ、と……) 浩之は逃げだした!! 「ドコ行くノ……? ヒロユキ……」 しかしまわりこまれた!! レミィの攻撃!! 「100円、出すネ……」 浩之は覚悟を決めた!! (ええぃっ!! もうなるようになれ!!) チャリン!! 「悲悲悲(ひひひ)、やっと殺れるネ……」 ――ぱあんっ!! びしぃっ!! レミィの一撃は、いきなりゾンビの頭を撃ち抜いた。 (うおっ!! さすがだ……) ぱあんっ!! またしても頭を打ち抜くが、今度は倒れない。 「腐腐腐(ふふふ)……簡単に死んでは面白くないワ……」 ――ぱあんっ!! 2発目でとどめを刺す。 そんなこんなで、6発全弾命中したが……。 カチッ!! 「無無無(むむむ)……弾切れ……、ヒロユキ! 弾!!」 「画面の外へ銃を向けて一発撃てばリロードされるぜ」 「弾!!」 「……聞いてねえな……」 どこっ、どかっ、ばきっ、ずばっ、ごしゃっ!! 「……モ、モウやられちゃったノ? ……貧弱ネ」 (今のはレミィがちゃんとリロードしなかったからだと思うぞ) そう言いたかったが、目の色が変わるまではそっとしておこうと思った。 「仕方ないネ……ヒロユキ!」 「? なんだ?」 「100円」 「…………」 事前説明はとても大事だな、そう思わずにはいられなかった。 姫川 琴音編 琴音の服の買い物に付き合うことになった雅史。 だがすでに、わずかに待ち合わせの時間に遅れてしまっていた。 「うわっ……、もう5分も待たせてる……急がないと……」 待ち合わせの場所まで懸命に突っ走る。 そしてそこには、下に俯いたままの琴音がいたのだった。 「はぁっ……はぁっ……ごめん……琴音ちゃん……遅れちゃって……」 怒っているだろうな、と思っていた雅史だが、意外なことに、雅史の姿を認めると、琴音はにっこりと微笑んだ。 「こんにちは、雅史さん。ふふ、いいえ、まだ5分くらいですから、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。今日はもともと、私用で来ていただいているのですから。慌てさせてしまって却って申し訳ありません」 逆にぺこりと頭を下げられてしまった。 「ほ、ほんとに……はぁっ……はぁっ……ごめん……それじゃ……行こうか……ん?」 雅史は、目の前に、妙な格好で倒れている人がいることに気がついた。年格好は20歳くらいで、ファッションが奇抜、いかにも「遊んでいる」感じを受ける男だった。 一方、琴音は突然慌て出す。 「あ、あれ……人が……」 「あ……そ、それでは行きましょう……」 琴音は雅史の手を握ると、引きずるように雅史を促す。 「あ、う、うん……」 とても気になるが、今日は遅刻していることもあり、琴音に逆らうこともなく、引かれるままに店に向かった。 今日、雅史のスポーツウェアを買う、ということを琴音に伝えたところ、一緒に行くという話になった。幾分余裕をもって出た甲斐があり、待ち合わせの場所に20分前に着いた。琴音はまだいない。 (…………うん) 雅史は、この前のことも気になり、隠れることにした。 待つこと5分後、琴音が来た。 可愛らしいイルカをかたどった腕時計をちらりと見た後、待ち合わせの場所にたたずむ琴音。 「ねえねえ、今暇なの? なら俺と遊ばない?」 立った瞬間、いきなりナンパ男が近づき、琴音に声を掛けた。 (……僕が言うのも何だけど、琴音ちゃんは、外見、内面共どこからどう見たって素晴らしい娘だしなあ……ナンパされても仕方ないよね……そういう娘が僕の……) 「あの……、私、彼と待ち合わせしているのですけど……」 (……あらためてそう言われると……嬉しいなあ……) なんだか全然違う方へと考えがうつってきたが、次の瞬間、そういう考えが一気に吹っ飛ぶ。 「いいじゃん、いいじゃん。彼氏より俺と一緒に遊んだ方が楽しいって! 行こ! ね!」 そういうと、ナンパ男は、いきなり琴音の腕を掴む。 「きゃっ!?」 一方の琴音は、腕を振りほどこうとして、懸命に振っているが、全然離れる気配がない。 (あ、あいつ……っ!!) 雅史も慌てて飛び出そうとした。しかし! 「うっ!?」 いきなりナンパ男の顔つきが変わった。腕がぱっ、と離れる。というより、腕が全く動かなくなっているようだ。そして琴音の背中に、炎のようなものが立ちこめだしたと思った刹那、 ――ぴかっ!! 「うわっ!?」 ものすごい光があたりを包んだ、と同時に。 どかばきぐしゃめきどこっ!! 何か妙な聞き慣れない音が響く。 そして――ホワイトアウトから抜け出た時に琴音の背中に 『天』 という文字が見えた気がした。 「あ、あの……滅殺です」 怯えるような顔をしながら、うしろを振り向いてそうつぶやく。 おそらく15HITCOMBOだろう、と作者は思った。 「う……げほっ……な、なんだ今のは……」 「ええいっ!!」 息の根が止まっていないことを確認したのか、サイコキネシス作動!! 見えない力が男を押しつぶす!! 「ぐぁぁぁっっ……!!」 ぷちっ。 ……どうやら完全に息の根が止まったようだ。その瞬間、くるりと一回転したあと、ポーズを決め、 「真のヒロイン、登場です♪」 とのたまった。どうやら、勝ったときのセリフらしい。一瞬、目が光ったのは気のせいだろうか? 雅史は結局、待ち合わせ時間より10分早い時間に到着したことにした。 そして、もう二度と、琴音を怒らせることがないようにと、ただただ、祈るだけだった。 松原 葵編 「う〜ん……これ、かわいいな……」 「……あれ?」 浩之は、珍しく本屋で立ち読みしている葵を見つけた。なにやら難しそうな顔をしている。 「ようっ、葵ちゃん。なに読んでいるんだ?」 「きゃっ!! あ!! ふ、藤田先輩っ!? あ、わ、わっ!!」 あたふたと今まで読んでいた本を後ろに隠す。 「?? 葵ちゃん、なんで隠すの??」 「い、いえっ!! これは、後ろに、ですね、え、ええっと……手を、回してですね、あ、え、っとぉ……本を見ようかな、なんて、あれ? れ?」 「????」 よくわからないが錯乱状態らしい。 周りを見ると、ゲームやらアニメやら、そういった雑誌が並ぶ棚だった。 「葵ちゃん、好きなゲームとか、好きなアニメとかあるの?」 「え? い、いいえっ。特にはっ」 「ふ〜ん……、でも、この辺って、そんな雑誌ばっかりだよね?」 「あ、ほ、本当だ……」 「??????」 嘘をつけない性格だけに、本当に知らなかったようだ。 ゲームでもアニメでもなければ、一体なんなのだろう?? そういった疑問とそれを知りたい欲求が浩之の身体を駆けめぐった。 「うーん、そういえば葵ちゃん。高校の参考書ってどこにあるか知ってる?」 「え? は、はいっ!!」 「ちょっと、案内してもらえるかな?」 「え、ええ、わかりました!」 葵は話題が逸れてほっとしたのか、本をもとの場所に置いて、案内しようとした。 が、そこで浩之がその本に手を伸ばした!! 「と〜〜った!!」 「え? ええええええええええええっ!!?? せ、せ、先輩っ!! み、見ないでくださいっ!!」 「どれどれ?」 「あぁぁ………」 「…………(汗)」 髪の毛を黒く染めて、白いはちまきを締める。そして、セーラー服のスカートとスカーフの色を合わせた。 「どうですか? 藤田先輩! やっぱりこの格好可愛いですよね?」 「…………葵ちゃん」 「はいっ!!」 「うん……確かに可愛い。可愛いけど……、葵ちゃんがその格好をすることは、たぶん許されないかもしれないよ……」 「え? どうしてですか?」 「え、いや、その……」 あまりに……というか、そのまんま春日○さ○らじゃねーのか? この前読んでいたコスプレの第一人者、芳賀玲子著『コスプレを楽しもう!!』もいつの間にかあるし……。 「うーん……それでは、うちの学校の制服を着て、耳カバーを付けて、モップを持って、髪の毛を緑色に……」 「うわぁぁぁぁっ!! やめええぇぇっ!!(似すぎているから!!)」 「……すっごく可愛いらしい格好だと思うのですが……」 格闘少女、コスプレに目覚める!!(ぉぉぉぉ) HMX−12 マルチ編 「だぁ〜っ! あっちぃなあ!!」 そういいながら浩之は、冷蔵庫から『帰ってきたチェ○オ メロン』を取り出し、ちょうど一口飲んだとき、玄関から声が聞こえる。 「只今帰りました、浩之さん」 「おぅ、ご苦労だったな、マルチ」 スーパーのビニール袋を受け取って、中身を確認する。 「人参、タマネギ、ジャガイモ、鶏肉、ルー、と……、うん、全部入っているな。最近は間違えず買い物出来るようになったな、えらいぞ」 そう言ったあと、マルチの頭を撫でる。 「あ、ありがとうごいます、浩之さん……あふぅ……」 ぽおっ、と顔を赤らめるマルチ。頭を撫でられると、異常なほどの快感があるらしい。それを認めると、浩之は、少し多めに撫でてやることにした。 「…………」 マルチはマルチで、悦に入っているようだ。がいきなり叫ぶ。 「あ、そうです!!」 突然のことに少し驚いて、撫でる手をぴたっと止める。 「な、なんだ? マルチ??」 「ひとつご質問して良いでしょうか?」 「おう、なんだ?」 飲みかけのジュースを持ち、一口飲む。 「しゅちにくりん、ってなんですか?」 「ぶっ!!」 そしてそれを、おもいっきりマルチの顔面に全て当てた。 「あぅぅっ、ひ、ひどいですぅ〜〜……浩之さん」 泣きそうな顔をしてそう言いながら、エプロンのポケットに入っているハンカチで自分の顔を拭く。 「げほっ、げほっ……す、すまねぇ……。マルチ、それ誰から聞いた?」 「先程、志保さんにお会いしまして……」 『あら? マルチ〜! 今日は買い物?』 『あっ! こんにちは、志保さん』 『全くヒロったらこんないたいけなロボットを足に使うなんてね〜、さいってーな奴ぅ〜』 『いえっ、私、浩之さんのためになにかすることが、とても嬉しいんです!』 『ふ〜ん……でも、あかりといいマルチといい、ヒロの奴、女の子二人囲って……まさしく”酒池肉林”って感じよねぇ〜〜』 『は?』 『あんな奴のどこが……あ、いっけなぁ〜い!! 友達待たせてるんだった!! じゃあね!!』 『あ……』 「……と云うことなんですが……」 (し、志保のヤロー……) 「で、しゅちにくりん、ってなんですか??」 (まともに答えられるかそんなの!! え、え〜っと……) すると、浩之の頭にランプがぴかりと光った。これでしかナイスアイディアが表現できないところから、作者の頭がいかに古典的であるかが解る(?) 「いいかマルチ、それは聞き違いだ。しゅちにくりん、じゃなくて『主人に君臨』だ」 「しゅじんにくんりん?」 「つまりだな、オレが、お前らの主人に君臨……つまり、ご主人様になった、ってことだ。ちゃんとオレに仕えないと駄目だぞ?」 「そうなんですか? はい!! わかりました!!」 「うん、そうだ!! きっと!! だけどな……」 続けて何かを言おうとしたとき、彼の人生に大きくかかわることが現実となった。 ぴんぽ〜ん…… 「は〜い!!」 とたとたとた……かちゃ。 「あ、あかりさん! いらっしゃいませ!」 (な、なにぃ〜?! こら!! こんなお約束な展開でいいと思っているのか!?) 良い、と作者は思った。 「マルチちゃん、こんにちは。言っておいた材料買ってきてくれた?」 「はい!! ここに!!」 「ありがとう。それじゃ、今日はカレーライスにしましょうか?」 「そういえばあかりさん。浩之さんにお仕えするようになったって聞いたんですけど?」 (マ、マルチさぁん!? それは言っちゃいやぁん!?) 浩之よ、言葉使いが変わったぞ? 「え……?」 「浩之さんが、あかりさんと私のご主人様になった、ということを、浩之さんから聞いたのですけど……」 「……ひろゆきちゃん?」 あかりよ、目つきがすごく変わったぞ? 「え、いや、その、あのな……色々と深い事情があってだな、この、その、あの、どの……」 「マルチちゃんになんて言ったの……?」 「あかりさんに負けないよう、私も、しっかりと浩之さんに”しゅちにくりん”します!」 マルチよ、言葉の意味がとんでもなく変わったぞ? 使い方が間違っていながらも、意味がなんとなーく通じるし。 「う、うわ、うわわわわわわ〜〜〜〜!!」 そしてその後、浩之は、あかりがおたまに加えてフライ返し、まな板の使い方までもレベル20に達していることを身体のすみずみにいたるまで体感した。 「それじゃ、今度は包丁の使い方をレクチャーするよ? これが一番自信あるんだ」 ……南無。 来栖川芹香編 「あ〜ぁ、オレら学生も、こんな暑っちぃ中、学舎(まなびや)に毎日顔を出すなんて、本当にご苦労なこったねぇ……」 夏休みながらも期末試験の成績が悪く、補習を受けに来た自分を虚しく誉めながらだらだらと歩く浩之の目の前に、たぐいまれなる輝きを放つ漆黒の髪を持つ女の子の後ろ姿が目に入った。 (何でこんなところに? まさか補習とか?) そう思ったが、とりあえず聞いてみることにした。 「せーりーかーせーんぱいっ」 「………」 「今日はどうしたの? 補習??」 ――ふるふる。 「ま、そうだよな……。で、どうしたの? まさかオレを待っていたとか??」 ははは、と冗談を軽く笑い飛ばしながら言ったが、彼女の答えは、意外にも、 ――こく。 であった。 「ええええええっ!? そ、そりゃ、意外だな……」 「…………」 「え、なに? オレに頼みたいことがあるって?」 ――こく。 「おう、オレで出来ることなら何でもやるぜ。で、なんだい?」 「…………」 「ふんふん」 「…………」 「さすがにお嬢様だな……。で、オレに頼みたいことってなんだ?」 「…………」 「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!? い、いや、それは……」 「…………」 (え、うわ、ちょ、ちょっと、そういう顔って反則〜〜!!) ……その日、浩之は来栖川家から借りた(借り物とはいえ価格にして数百万、とセバスチャンは云っていた。どこにそれだけの値打ちがあるかわからないが)タキシードに身を包んで、来栖川家の大広間に立つことになった。 「悪いわね〜♪ いつも私がやってたんだけどさ、私以外に出来る人がいるのなら、前々からお願いしようかなぁ、なんて思っていたのよ♪」 「……綾香……お前はよ〜〜」 「だって一応私もさ、来栖川の一員だし、こういうときはやっぱりご接待も大切だと思うのよね。それにさ、姉さんも貴方といると、すごく明るくなるし。まさに適役だと思うのよね〜♪♪」 ――ぽっ。 (うおっ……先輩、その顔も別の意味で反則……) 「……………………………」 「あっ……と、『本日はお忙しい中、我が来栖川家創立60周年記念会合にご出席いただき、誠に有り難う御座います』」 「あぁ、これはこれは芹香お嬢様。こちらこそ、わたくしを呼んでいただき、恐悦至極に存じます」 「…………………」 「『なにもありませんが、ごゆるりとご歓談下さい』」 「ははは、遠慮なく楽しませて貰うことにしますよ……で、こちらの方は?」 「は? オレ? ……じゃ、なくて、私は、先輩……ではなくて、芹香お嬢様の通訳で御座います」 「ほぅ……いつもの妹君以外にも出来る者がいたとは。しかし、もう少し、言葉の勉強をした方が良いですぞ。敬語も使えないようでは、この先、通訳としてはやっていけないでしょうからな」 (オレだって、今日だけの通訳だよ……) 「……………………」 「え……っと、『この方は、ただの通訳ではありません』……って?!」 「…………………」 「ちょ、ちょっとまったぁ!!」 「…………」 「『通訳して下さい』って……あ、あのさぁ……」 来栖川芹香、逆転ホームラン狙い!!(ぉぉぉ 雛山 理緒編 「なあ、理緒ちゃん」 「なになに? 藤田君?」 「この二本跳ね上がっている髪の毛、どうやって動かしているんだ?」 「?」 理緒ちゃんは、よくわからない顔をしているが、実際、さっきまで、二本ともまっすぐ上に向かって伸びていたのが、今、向かって左側がかくっと曲がっている。 「ほら、今曲がっているだろ?」 「あはは……私もよくわからない」 そう言って両手の人差し指をあわせて、困った顔をする。いつの間にか両方がかくっと曲がっていた。 「なんだか神経が通っているみたいだな……」 そういいながら、髪の毛を指でつついてみる。 「あっ!」 「え?」 つんつん。 「ちょ、ま、まって!!」 「ま、まさか……?」 さわさわ……。 「あははははっ!! く、くすぐったいよお!!」 くりくり……。 「あっ……あわわわわっ!! や、やめてよおっ!!」 「う〜む?」 …………。 「実験その1!!! 彼女のあれは触角なのか?!!」 そう高らかに叫ぶと、理緒ちゃんの方へトランプをびっ、と向ける。 「理緒ちゃん、この数字、いくつだか解るか?」 裏側からじっと見つめるが、やがて諦めたように 「うーん…やっぱり全然わからないや……」 とつぶやく。すると、浩之は、人差し指を、触角と思われるところにつける。 「………どうだ? オレが考えている数字が解るか?」 「あっ……ひょっとして……ハートの10?」 「よし!! それじゃこれは?」 「スペードのエース?」 「立証〜〜〜〜!!」 「続いて、実験その2!!! 彼女のあれは角にもなるぞ?!!」 そう高らかに叫ぶと、雑誌を持ってくる。 「よけるなよ、理緒ちゃん」 「え?! え?!」 「そりゃっ!!」 浩之は、その雑誌を角と思われるところに向け上から先端にぶつける。 ぐさぁっ!! 「立証〜〜〜〜!! ……理緒ちゃん、転ぶときは前方を良く確認してから転ばないと人を刺すかもしれないから気を付けろよ」 「……好きで転んでるわけじゃないんだけど……」 すこし泣き顔になってしまったが、実験に犠牲は付き物である。 「さらに、実験その3!!! 彼女のあれは避雷針ならぬ避電波針だ?!!」 そう高らかに叫ぶと、祐介を連れてくる。 「いけっ、祐介!」 「浩之、突然呼び出したりして一体何?」 「ノリが悪いなぁ、祐介。リーフファイトならこれで戦闘シーンだってのに。来ていきなりだけどよ、彼女に攻撃系の電波を軽めに当ててみてくれないか?」 「な……!?」 「ダメージが当たらない程度に」 「……また僕にこの力を使わせるのか」 結局、リーフファイトそのままのセリフを吐く。結構祐介もノリがよい。 祐介の精神電波!! 祐介の頭の中をちりちりと電気の粒が駆けめぐる。 「……」 しかし、あまり効果がない。 「おかえしっ!!」 理緒のスマイル0円!! 「ありがとうございましたー!」 「え?!」 ばきぃっ!! めちゃくちゃ効果的だ(リーフファイト97より)。 「……ここまでか」 祐介は戦闘不能になった。 ……繰り返すが実験に犠牲は付き物である。 骨は拾ってやるから安心しろ(何か違う)。 ………… このあと、果てしない実験と立証の嵐が続くが、あまりに文章に書ききれないので、今回はここまで。 立証されたものを挙げる。 ・触角 ・角 ・避電波針 ・避雷針 ・ビームサーベル ・一瞬だけ伸び縮み、及びそれによる攻撃 ・自在に曲げ伸ばし及びそれによりものを掴む ・ラジオ受信 ・TV音声受信(画像不鮮明) ・ナビゲーションシステム(ただし、彼女にナビを頼むと余計に道に迷うことから使えない) ・無線傍受(警察のデジタルどころか、各国の機密の会話まで傍受できる(ぉぉぉぉ。 が、言葉が訳せないため意味無し) ・携帯電話(各メーカーに対応しているが、登録していないためすぐ切られた) ・感じやすい(爆) etc…… 来栖川綾香編 其の一 〜実は関東ローカルだったのか〜 「ふわぁぁぁぁぁぁ、今日も良いお天気で。こういう日は河川敷でゆっくりと今後のことでも考えるとしますかね……」 と、浩之が昼寝の理由をわざわざ決めて河川敷へ向かおうとしたとき、後ろから突然声を掛けられた。 「な〜に? そんな欠伸なんかして。だらしないわねぇ……」 振り向くと、おしとやかで有名な寺女の制服に凶暴な性格をしたたかに隠すお嬢様が立っておられた。 「はぁい♪ ってなによ↑の説明は!? ちょっと!!」 「な、なんだよ、いきなり……オレが怒られるようなことをしたか??」 「え、い、いいえ。何でも……」 「???」 ぴろぴろぴーぴろぴろぴー。 (おっ、今流行りの曲じゃねーか。綾香の携帯か?) 「おい、携帯鳴ってるぞ?」 「わかってるわよ……はい……あ、姉さん? うん、うん……わかった、それじゃ、1時間後ね」 「お?」 「ん? なあに?」 「この携帯、意外に普通だな」 「なによ、普通じゃない携帯電話なんてあるの?」 「来栖川のPKー212ってやつかと思ったぜ」 首都圏や大都市、都道府県庁所在地以外にはアンテナがあまり立たず、その割に値段が他機種と同じくらいだが、遊び心というか、いじっていて楽しい機能がたくさん付いていて、一部(というか女子高生)ではすごく人気がある機種だ。 「うーん、来栖川だと、遠出したときに異常に弱いからねぇ。だからどこにでもあるような普通のやつ」 「どこのメーカーだ、それ?」 「J−PH×NEよ」 「ま、まさか……?!」 「ふふふ……」 そういって、がしっ、と顎の部分をつかむと、べりべりと顔の表面がめくれる!! 「おおっ!! オレもそうじゃねーかと思ってたんだ!! 格闘好きなところも一緒だし!! やるのと見るのとの違いはあるけど!!」 「おまえ、違うの〜? ふふ、はいお約束っ」 「って、めくっても綾香じゃねーか!! 期待させやがって!! んなもんに金かけてんじゃねー!!」 「何よ〜、そんなに藤○紀香の方が良かったわけぇ?」 「ったりめーだ!! 芸能人とお前じゃな……」 「何よ?」 「……なんでもねー」 正直言って、藤○紀香と来栖川綾香では、綾香の方が……と思ってしまう、2次元度2.15、どこからどう見ても2次コンの作者の葛藤があった……。 もう元には戻れない……のだろうか(T_T) でも、ディスプレイと現実を同格に見ている時点で終わってるか(爆)。 其の二 〜綾香の野望 全国版(意味なし)〜 あの日。 戦いに勝ったが勝負には負けた綾香。 それ以来、浩之と拳を交えることは無かったが、たった一週間で目に見えるほどにどんどん成長していく浩之と戦うことにこみ上げてくるワクワクする感情は、久しくなかったものであった。 一方、浩之は、格闘技の面白さに少しずつ惹かれた結果、一年生が一人で立ち上げた格闘技同好会に入部。 そして。 一週間に一度、再び、彼女の携帯には、公衆電話による非通知通信の電話が掛かってくるようになったのである。 「あーあ、やたらと前置きが長いわよねぇ。かとぱんの文力がいかに貧弱かを物語ってるわよね。単純に浩之と私が一週間に一回やり合うことにした、とでも書けばいいのに」 「やり合う、だと、いらぬ想像をかき立てるんじゃねーの?」 「?」 「……ま、わかんねーならそれでいい。それじゃセリオ、始めてくれよ」 「はい、浩之さん。綾香様もよろしいですね? それでは参ります。レディ……」 相も変わらず感情があるのかないのか解らない口調でセリオが合図を下す。 両者、拳にグッと力を入れる。 浩之も綾香も、この一瞬がたまらなく快感なのだ。 「ファイッ」 …………………… 「あれ……? あ、いてててて……」 「ん? 起きた? 大丈夫?」 結局、膝蹴りによってよろめいたところに後ろ回し蹴りの一撃で決められてしまった。 ただ、いつもと違うのは。 「お前こそ大丈夫かよ?」 綾香の左の頬が真っ赤に腫れ上がっている。 膝蹴りは、浩之の一撃がまともに綾香に入ったことにより浩之の油断が生まれ、入ったものだった。 「ふふ、全然大丈夫。そんなのより、快感というか、嬉しさの方が強くって」 綾香が格闘技を教え始めてまだ3ヶ月も過ぎていない。 正直、一発いいのをもらったのはいつ以来なのかも記憶していないほど、久しぶりのことだった。 これから、もっと。浩之は強くなる。 そう思うと、嬉しくて仕方がなかった。 「……あ、綾香……まさかお前……芹香先輩に対抗して……」 そんなことを綾香が考えているのを知っているのか知らないのか、驚きを隠せない顔で綾香を見つめる。 「ん? 何?」 「『お嬢様はマゾ』!?」 「……どーして」 ばきっ! 「……こーいう」 どかっ! 「シリアスなところで」 べきっ! 「そういうこと言うのかしらねぇ!?」 ぎりぎりぎりぎりぎり……。 最後に入っているお嬢様の関節技は、マジで完璧に決まっていた。 「Nooooooooooooooooooooooooo!!! ギブギブ、ギブアップ!!!」 (……でも、浩之の苦悶する表情を見るのは……ふふっ♪) お嬢様は、どちらかというとサドだった。 HMX−13 セリオ編 学校の帰り道、ゲーセンの前を通ろうとすると、一人、いや、一体、どこを見ているか解らないような目でたたずむ知り合いを見受けた。 「よお、セリオ」 「こんにちは、浩之さん」 相変わらず無味乾燥な、それでいて発音だけはしっかりしている声でいつものようにそう答える。 「今日はマルチは一緒じゃないのか?」 「いいえ、マルチさんはもうすぐいらっしゃるはずなのですが、少し遅れているようなのです」 「ふーん……しかし、お前らって、似ても似つかないよなぁ。一応姉妹みたいなもんなんだろ?」 「はい」 (ふーむ。でも、マルチみたいに真っ平らって訳でもなくて、出てるとこ出てるし……。マルチもこれくらいあればなぁ……) だが、全国の『浩之』は、あの真っ平らなところも激萌えということは、周知の事実である。 「お前さぁ、趣味とかあるの?」 「趣味、ですか?」 「例えば、マルチとかは、掃除が好きだよな? お前にも、好きなこととか、好きなものとかあるのかな、って」 「……あっ」 何かを思いだしたような、セリオにしては珍しい表情を見せる。 「? どうした? セリオ?」 「現在の時刻確認……17時17分37秒。次回バスの出発時刻検索…………完了。17時21分発。来栖川エレクトロニクス17時47分着。次々回バスの出発時刻検索…………完了。17時56分発。来栖川エレクトロニクス18時22分着……」 なにやらぶつぶつと考えたかと思うと、時計と周りをいきなり気にし始め、珍しくセリオから質問してきた。 「申し訳ありませんが、浩之さん。マルチさんは何をしていらしたかご存じですか?」 「ん? あー、今日はすれ違うこともなかったからわからねーけど、それがどうかしたか?」 「……いいえ、何でもありません。ありがとうございました」 「……?」 ドロロロロ……。 大型車独特のエンジン音を響かせながらバスが来たが、マルチはまだ来ない。が…… ぱっ。 「浩之さん、それでは、失礼いたします」 「え?!」 セリオは手を挙げてバスを止め、そのバスに無表情とは云いにくい、何か焦りを感じるような顔で乗り込んでいってしまった。 「あ、おい、マルチはいいのか??」 ドロロロロ…… それがまるで聞こえないように、バスにそのまま乗っていってしまった。 (なんだ? セリオはマルチを待っていた訳じゃないのか?) 「あ、浩之さぁ〜ん」 その直後、そんな声が後ろから聞こえたかと思うと、マルチが手を振りながらこっちに走ってくる。 「おう、マルチ」 「あれ? セリオさん、先に帰ってしまったんですか?」 「ああ、さっきまで待っていたみたいだけど、あわてて行っちまったぞ?」 「あうぅっ、仕方がないですよね。私が遅れたんですし、今日はあの日ですから6時までには帰らないと」 (……あの日って何??) …………… 「なぜセリオは、あんな趣味をもってしまったんだ?」 「え?! 主任が好きで入れたのではないのですか?」 「う〜ん……私にもさっぱりわからんのだよ……」 そんなことを話しているのも気づかないほどにTVにかじりついているセリオ。 「………」(正義の力を見せる瞬間だと思っている) 『必殺、過疎バズーカ!!』 ボカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!! 「………」(決まったと思っている) 『故郷の過疎化はオレ達が阻止する!!』 「………」(かっこいいと思っている) 『『故郷戦隊、過疎レンジャー!!』』 「………」(今日も面白い話だったと思っている) がちゃ、うぃーん。 がちゃ、うぃーん。 がちゃ、うぃーん。 「うーむ、しかし、TVでばっちり見ていながら同じもんを3つ録画して何しようって云うんだ?」 「たぶん……観賞用、保存用、布教用かと……」 「……よくわからん」 HMX−13セリオプロトタイププロフィール、好きなもの:特撮ヒーロー。 ……嘘じゃないってば。 坂下 好恵編 (そーいえばヒロ、『QOL(クイーン オブ リーフ)99』が出たって知ってた?) 最近ゲーセンには予算の都合上足が遠のいていたが、こうなると話は別であった。 (志保の野郎、QOL96から98まではむちゃくちゃ強かったからな……) そのおかげで、QOLが出る時期になると、毎回のように志保と勝負、いつも負けて、ヤックを何度もおごらされる羽目になっていた。 今回はキャラが9人追加されたらしい。 女の子キャラばかり出演することから、格闘ACTマニアからは敬遠されがちであったが、あまりの技の楽しさとバランスの良さに、逆に魅力に惹かれてしまい、そのキャラクタが出てくるゲームを根こそぎ買っていってしまって、一気にとり憑かれたようになってしまう現状もあったりした。 今日は修行も含め、勇んでゲーセンを訪れたはいいが、予想通り、ぎっしりと行列ができあがっていた。 「あ〜ぁ、やっぱりな、……ん?」 その中で、一人だけ女の子が珍しくQOL99をしていた。おまけにむちゃくちゃ強い。 (あれ? こいつ、どっかで……?) そんなことを考えているとその女の子は大きくため息をつく。 「はぁ……これなら、簡単に綾香に勝てるのに……」 その通り、画面の中では、東鳩最強と謳われるアヤカがパーフェクト負けを喫していた。 (やるじゃねーか……で、使用キャラは……だれだ? これ?) 正直、このゲームはキャラクタが多すぎて、使用キャラ以外、あまり覚えていない。 なにせ、6+3+6+7+13+6、そして今回の9人で合計50人だ。 セレクトの仕方も一度ゲームタイトルを選択したあとにキャラ選択するという、とんでもないやり方を敢行している。 そんなこんなで対戦相手も蹴散らし、あっという間にエンディングにたどり着いてしまった。クリアしたあと、くるりと後ろを向き、浩之と正面に向き合う形になった。 「あら? あなた……いつも葵と一緒にいる……藤田じゃない?」 「??」 「そっか……私のこと知らないのね。無理ないわ」 「ああ、すまねぇ……、えっと……名前は?」 だが、そんなことは聞いていないようにぶつぶつ何かを言っている。 「そうよね……だって、私って葵シナリオしか出てこないし……。なにより、リーフファイト97にも出られなかったのは屈辱だわ……、なんであんなエンディングにちらっとしか出なくてセリフもないメイドロボのHM−12が出ることが出来て、私が出られなかったのかしら……。だいたい、綾香だって、セリオだって、PC版では私よりセリフが少ないのに、それでいてい人気はヒロイン達を喰う勢いがあって、それに後押しされるようにPSではあんなに出番が増えていて……。綾香なんてヒロインの座まで射止めてさ。セリオも、何よあの『肩もみセリオ』っていうのは!? しかもCGがあるってどういうことよ?! さらにハートバイハートまでそろって出場……。私なんてぜーんぜんセリフも増えてなくて、おまけにCGも一枚も追加されないし、何にも出られなくて……」 「お、おい……」 「何よ!? 何か違うっていうの!? わかっているわ……所詮私は葵の敵役だけに存在するんであって、それ以外の価値なんて、どこにもないんだから……。私が葵を倒したら、即バッドエンドだしね……。ヒロインの敵は、所詮やられるだけの存在よ。勝つこと自体が罪なんだわ……。私って、スポ魂マンガでいえば、主人公と3回戦あたりで当たって、少し苦戦させても負けちゃって、もう二度とマンガには出てこない、そんなチームの中心選手、くらいの立場しかないんだわ……」 (説明が回りくどいが、一言でいえば、そのときだけ目立てば、あとはどうでも良いキャラ、ってことだな) ――言っておくが、作者から見れば、彼女はどうでも良いキャラではない。少なくとも。 「……貴方に言われても、虚しいだけだわ」 ――さいですか(;; 「……QOLだけは、やっと出られたの……50人くらいキャラがいれば、私だって入れる……」 そして、エンディングが終わり、キャラクタ使用順位が並べられる。 1 チヅル 27.6% 2 アヤカ 23.1% 3 カエデ 19.6% …………… 48 ユキ・Y 0.9% 49 アレイ 0.6% 50 ヨシエ 0.1% 「…………あ」 (うーむ……つまりこれって、1000人プレイヤーがいて、目の前で動かしていたこいつ1人しか使用していないってことだよな……、これってある意味、出場しない方がましってやつじゃ……) 「…………ううっ……どうせ、リーフ公認のToHeartビジュアルファンブックでも『恵子』って間違えられてるわぁぁぁぁぁっ……!!」 すごい勢いで逃げるようにゲーセンから出ていく彼女の泣き続ける背中を、浩之はただ、見つめることしかできなかった……。 HM−12編 皆様は、超人気ラジオ番組、DJ辛島美音子がおくる「ハートトゥハート」が終わったあと、とある番組がオンエアされていることをご存じだろうか……? 『午前一時をお伝えいたします………。ぴ、ぴ、ぴ、ぽーん……』 「マルチと!!」 「HM−12」 「そして今日お休みのセリオさんでお送りする!!」 「「ウィークリーHMニュース」ですぅ!!」 「ええっと、こんばんはぁ!! HMX−12マルチです!!」 「こんばんは。HM−12です。この番組は、来栖川エレクトロニクス製のHMシリーズへの御質問を葉書などで募集しつつ、情報をいち早く紹介することをコンセプトに、最新のメイドロボがコーナーを受け持っていく形式を取っております」 「そうなんですよー!! 申し訳ありませんが、今日はセリオさんは定期メンテナンスのためお休みです。ですから、今週は私たちでお送りします!!」 「最初のお便りです。この度はお葉書どうもありがとうございます。ペンネーム『はしもっち』様からのお葉書です……………………マルチお姉さま」 「はい、なんですかぁ?」 「普通『お姉さま』といえば『自分より年上の女の姉妹』という意味だと思うのですが」 「はい? ええ、そうですよー」 「この葉書の質問の意味がよく解りません」 「ええっと……『マルチお姉さま、ということは、マルチがタチでHM−12がネコなんですか?』」 「タチ、ネコはそのままの意味ではなさそうですが、何なんでしょうか?」 「ええっと……、あううっ……わかりませぇん……」 「ただいま検索中……」 「検索できるのですかぁ?」 「はい、私たちHM−12は、ある程度の辞書機能、また、辞書に掲載されなくても言葉として認められる物は標準で読み出せるよう持ち合わせております。……検索終了。タチとネコが両方使用されたときのみ、タチは「攻」で、ネコは「受」だそうです」 「??? それでもよく解りませんが……。『攻』の反対の言葉は『守』ではないでしょうか?? あ、でも、大丈夫ですよー。私たちメイドロボはどのように扱って頂いても、絶対に『攻』めることはありえません。ですから、私たちは両方ネコってことになるのでしょうか?」 「おそらく正しいと思われます」 「ほっ……良かったですぅ。ええっと、それでは次のお便りです!! ペンネーム『ねこっちゃ』様からのお葉書です!! ありがとうございます!!」 「この方も『受』なのでしょうか? ねこ、と書かれていますが」 「タチという言葉がありませんので、おそらく違うと思いますよ。ええっと……『「HM−12」には、マルチみたいに、愛称はないのでしょうか?』ですかぁ。そういえば、あなたは主任さんになんて呼ばれていたのですかぁ?」 「私たちは開発コード自体はお姉さまと同じ『マルチ』でしたが、実際呼ばれるときは『HM−12』以外で呼ばれたことはありません」 「そうなんですか?」 「ええ。ですが、ご主人様に何か呼称を決定して頂いた場合、氏名登録許可を通して、自分を呼ばれたことと認識するように出来ております」 「そうなんですかー。では、あなたは、まだ名前がないのですね?」 「はい」 「それでしたら、ここだけの呼び方を決めてしまいましょう!!」 「はい」 「それでは、宛先はここ「りり〜ふえ〜すBBS」までお願いいたしますぅ!!(マジか?!)」 「それでは最後のお手紙です。ペンネーム『私は”岸”』様からです。『マルチちゃんに質問。浩之ちゃんとの性活はどうですか?』」 「せいかつですか?? はい!! とても充実しています!! 浩之さんからいろいろ教えていただけるので、私もたくさん覚えたんですよー!!」 「あ……」 「え? なにかおかしかったですか?」 「いいえ……」 「どうしたんですか? 下を向いて……」 断末魔とは、ほとんどの場合、本人が一番醜い顔が浮かぶ瞬間である。 ね、浩之君。 宮内シンディ編 某月某日藤田邸。 「るるり〜るりるら〜るるる〜」 今日も、いつものようにモップを楽しそうに動かすマルチ。 「…………甘い」 「るるる〜るる〜るらら〜」 「…………甘いわ」 「る〜……? はい?」 「確かに、どこからどう見ても輝いている……、磨き方に於いては完璧……、だけど!!」 「あ、あの……あなたは?」 「さすらいの必殺掃除人、シンディ……そうそう、『必殺』といえばToHeartPS版の広告に京本○樹が出ていたけど……」 「えぇ、どう考えてもあかりさんのポスターが盗まれることを予想して作ったとしか…… CM。 「あううっ……」 「『必殺』の時の彼は輝いていたわ……」 「それでは、『必殺』以外のときの京○さんは輝いていなかっ…… CM。 「あううっ……」 「話を戻すけど、貴女の掃除っぷりは確かにほぼ完璧だわ……でも……『日本じゃぁ、2番目』ね……」 「そのねたがわかるところが……さすがにじゅうは…… CM。 「あううっ……同じネタは3度までと聞いておりますけど……」 「そんなことはどうでも良いとして、私が見本を見せてあげるわ……貴女は効率が悪すぎる。私なら理論的に時間を1/2くらいには出来るわ……。まず!! 一階の居間から掃除するって何よ?! 普通は二階から一階へ、手間のかかる方からかからない方へ流れるように行くのが常識!! そして、忘れやすいのがこういうときは、まずトイレ、お風呂など、水まわりからはじめるということ!! 汚れた箇所にはきっちりと薬品を付けてから掃除を始めて、薬品の効果が現れる間に別のところを掃除する!!」 「はぁ」 「そして、部屋に於いても、高いところから低いところへ掃除しないと折角綺麗にしたところが汚れてしまって二度手間になってしまう!! 例外はほぼ無いわ!! さらに!! 棚から全部降ろしてしまっては時間がかかって仕方がないわ!! 棚は一ヶ所だけ降ろして、あとのものは横にスライドさせるように移動しながら掃除する!! こんな基本中の基本でさえ守れないようではどうしようもないわよ!! そりゃぁぁぁぁぁっ!!」 それだけ言うと、ものすごい勢いで掃除をし始めた。 「必殺!! 雑巾の舞!!!」 どういう意味があるのかわからないが、雑巾が美しく円を描く。 「わぁぁぁぁっ……」 しかし、マルチは目をきらきらと輝かせながらその様子をうっとりと見つめる。 「細かいところは軍手を用意し、軍手自体を乾拭き雑巾の代わりに使う!! ブラインドなどにも応用できるわ!! ただし、薬品などを混ぜ込むと危険だから使ってはいけないわよ!!」 「な、なるほどぉ……」 「まだまだぁ!! 必殺!! 箒乱舞!!」 さらによくわからないが、箒をカンフー映画でよく見るように振り回している。 「す、すごいですっ!!」 しかし、マルチは素直に目の前に起こっていることにひとしきり感動していた。 …………… 「これで良し!! どんなに潔癖性な人でも安心してお使いいただけるわ!!」 ぱちぱちぱち……。 「す、すばらしいです……シンディさん……」 「はあっ……はあっ……あら?」 すると、突然なにか目覚めたような様子であたりをきょろきょろと見渡した。 「私、どうしたのかしら……? 確か、藤田さんにヘレンからの届け物を……、それで……、玄関のノブに消毒液を吹きかけて……開けたらマルチが掃除しているなぁ……、と思って……、そのあと……あら?」 「私、たくさんのことを覚えました!! ありがとうございます!!」 「え? ええ? よくわからないけど……」 結論:藤田邸は彼女から見たらばい菌の固まりのように見えたため、頭の配線が一時的に切れた その後。 「雑巾の舞ですぅ!!」 「「……」」 「箒乱舞ですぅ!!」 「……何かあったのか? マルチは……」 「浩之ちゃんが教えたんじゃないの??」 「んなわけあるかっ!」 さすらいの必殺掃除人、シンディ……。彼女は全国の潔癖性人種のために今日も闘う!! |