ToHeart SS 十五分一本勝負! |
PM6:30、藤田邸。 いつもの彼の家では考えられない、異様な雰囲気が辺りを支配していた。 「まさか、お前とタイマンとはな…、へへっ…、てめえに勝ちはねえ!!」 「ふふん、その言葉、あんたにそのままお返しするわっ! 丁重に受け取りなさいっ!!」 浩之と志保、互いにものすごい殺気で睨み合う。堅苦しい緊張感が辺りを包みだした。二人ともわずかに汗がじわじわと額のところから滲み出す。これが二次SSでなく漫画だったら、間違いなく今のバックの風景はお約束の雷雨、もしくは竜虎だ。 そして場外から、その様子を止めることもできず、固唾を呑んで見つめている面々。 「浩之ちゃん…本気だ…」 「ああなると浩之は手に負えないね」 「浩之さん、こわいですぅ…」 「長岡さんもあの情熱を別のとこに持っていけばええのになあ…」 「フフ、楽しみネ…ウズウズするヨ…」 「藤田君…あんなに怖い表情をするんだ……」 「藤田さん…出来れば…負けないで…」 「でも…先輩が勝てば長岡先輩が……」 「…………」 「あ、今は姉さんなんにも喋っていないわよ」 ぴいんと張りつめた空気を裂くがごとく、浩之が口火を切る。 「くくっ…覚悟は出来たか? それじゃ、そろそろ始めようか…? 安心しろ、死んだら線香の一本ぐらい挙げてやるぜ…」 「はん、何を勘違いしてるのかしら? あんたこそ、自分の棺桶でも用意しておきなさいっ!」 「へっ……いくぜっ!」 「来なさいっ!」 二人が同時に動く!! 「「じゃーんけーん、ぽんっ!!!」」 ぱー、ぐー。 「いよっしゃあああああああ!!!!!」 両手を高々と挙げて力を込めてガッツポーズを決める浩之。そして、全ての光を包み込むように腕を広げ、天を仰ぎ見るように上を見つめ、これが人間の「喜びの限界」と言うにふさわしい、清々しい顔をしている。うっすらと光が射し込む効果も付いているようにさえ思える。 『ああ…見ていてくれたかいみんな…オレは…オレはやったぜ!』 などど文字が空中に羅列されている幻覚さえ感じられる。 「そんな……あたしが負けるなんて……パーのヒロはパーを出すに決まっているのに……、読めなかった……」 それに対し、へなへなと力が抜け、膝が折れ、床に崩れ落ちる志保。ちび○子ちゃんの縦線なぞは比べものにならないほど青ざめ、これが人間の「惨めの限界」と言うにふさわしい、鬱々とした顔をしている。身体全体が真っ白になり、バック全てが黒ベタで描かれている効果が付いているようにさえ思える。 『負けた…? 私が…? あんなに全力を尽くしたのに…? どうして? どうして最後に私は勝てないの…?』 などと樋口智恵子(※1)ナレーションによる幻聴まで感じられる。 今日は2月3日。…そう、いわゆる節分だ。節分、といえば、そう…豆まきである。 ただ豆をまくだけじゃ面白くない。そう思った人々がいつしか出てきた。そして、面白さを増すためだけに、人々は、一個人を鬼のかわりにしてお面をかぶせ、豆をぶつけることで、一年の厄をはらうというのを口上に、集団で個人をいじめるサディスティックな快感を味わうことを公的に認められる日を作り上げたのである。 しかし、いじめるヤツがいれば当然いじめられるヤツも存在する。 それが決まるのは、単純なゲームなどである(普段からいじめられるヤツにするのは作者が許さん)。じゃんけん、あみだ、くじ引き…etc、その人数の中たった一人、単純なゲームに己の全てを託し、そして先に勝利をもぎ取った、敵になるやも知れぬ友人を横目に、次々に減り行く勝利者の椅子を引き寄せられない、その日の運無し野郎、グランドクルスが完成し恐怖の大王が降り立ってしまったヤツが「鬼」という名のいじめられっ子になるのだ。 そして、今。 本日2月3日に一番運がなかったヤツは、長岡志保であることが明白になったのである。 「へっへっへっ…、おい、あかり! 豆はたくさん用意したんだろうな!」 本日二番目に運が悪かったヤツでも勝利者だ。意気揚々に叫ぶ。 「う、うん……とりあえずみんなで集めたお金で買えるだけ買ってきたよ」 「その中には私が出したお金もあるのよねえ……」 「オレの言ったとおりのモノ買ってきただろうな?」 「う、うん……ちゃんと豆の大きいのを選んできたよ」 「あかり…、そんなことを真面目にやらなくてもいいのに…」 約一名、心の底から悲しげな涙声をちょこちょこあげているが、聞いていた者は誰もいなかった。 「よっし! 物を壊さなければ今日はいくら豆で散らかしてもかまわねえ! 存分に豆を『鬼』にぶつけまくってくれ! 外に逃げても追っかけてかまわねえ! 徹底的に『鬼』にぶつけて、この家の厄を払ってやってくれ!!」 「でも…私が後片付けをすることになるんだよね…」 「お、わかってんじゃねーか、あかり」 ………… 「なんだかこういうことをするのも久しぶりだね、浩之」 「ん? あー、そういやそうだな」 「なんだか昔を思い出すね…」 「?」 「小学生の頃、僕の家で、千絵美姉さんとあかりちゃんと浩之と僕で、節分の鬼を決めるジャンケンしたら、千絵美姉さんが負けちゃってさ…」 「! そ、それは…」 「そしたら浩之、容赦なく千絵美姉さんの顔面に全力投球で豆ぶつけちゃって…、千絵美姉さん、泣いちゃったよね…」 「そ、そんなこともあったかなあ、ははは…」 「浩之ちゃんって、こういうことにはいつも全力を出すよね」 「でも今日は、全力を出してもいいよね」 「「…………」」 (浩之ちゃん…ひょっとして、雅史ちゃんって結構志保に…) (…………たまってんだな) ………… 「浩之さん、『厄』って何ですか?」 「ん? そうだな…いいかマルチ、簡単に言えば、『厄』っていうのは、悪いものごと、のことで、『払う』ことで、『厄』を追い出すんだ。そして、この場合は『鬼』である志保に豆をぶつければ、『厄を払う』ことが出来るんだ。どうだ、わかったか?」 「はい、だいたいわかりました…とにかく、志保さんに豆をぶつければ、『厄を払う』ことができるんですね?」 「ああ、そこまでわかれば上出来だ。そして、なるべく全力でぶつけた方が効果が高いんだ」 「ちょっと! デタラメなことまで教えないでよ!!」 ………… 「よっしゃ…せっかく勝ったんやし…やらせて貰うで…」 「そうだ委員長! やるときは全力だぞ!」 (保科さん…いつもより妙に目が爛々としているんだけど…闘争心がみなぎっているというか…) (あかり…あれこそが委員長の本性だ。この前ゲーセンで委員長を見かけたときな、景品がキャッチできなくて、こともあろうに機械のせいにして蹴飛ばしてたくらいだからな) 「ぷっ…」 「な、あの委員長がだぞ? それにな、その後、店員さんに説教始められたときはどうしようかと思ったぜ…」 「ぷぷっ…あはははははは!!」 「あのな…声出てるで、二人とも…」 スタープラチナ(※2)が時を止めたのではないか、と思える一瞬が二人を襲った。 このとき、浩之は「も、もしかしてオラオラですか〜!?」と言いたくてたまらなく、「YESYESYES…」と答えたいと智子が企んでいたことは伏せておく。 ………… 「フフフ…ハンティングネ…」 「そうだ! がんばろうぜ、レミィ!」 「ククク、豆を何百とHITさせテ、目に涙をいっぱいにためながら弱々しく啜り泣いて惨めに助けを求めるシホにトドメを刺すのは私ネ…」 「「…………」」 (浩之ちゃん…もう焚き付けなくても…) (ああ、充分目がイッてるしな…志保…マジでやばいぞ…下手すりゃ命が…) (……節分の豆をぶつけられて死ぬなんていやああああああああああっ!!) ………… ぽりぽりぽりぽり…。 「「?」」 ぽりぽりぽりぽり…。 「あ、結構おいしい、この豆…みんなにも持っていってあげようかな…?」 「理緒ちゃん…」 「ふ、藤田君?! ご、ごめん…ちょっと、おいしそうだったから…」 「年の数までだぞ、豆を食う数は」 そう答える浩之に、ちょっと違うんじゃないかな、とあかりは思ったが、あえて伏せた。 ………… 琴音は、豆をこれでもか、といわんばかりに山盛りにしている。 「琴音ちゃん、いっぱい持ったなあ」 「はい…、いつも長岡さんには某会誌などでご一緒させて貰っているんです…いつもお世話になっているので…」 「そ、そうよね…」 「「?」」 そう言いながら志保は汗をかいている。 「その御礼に、今日は私の全てをぶつけるつもりで頑張ります!」 やっぱりぃ〜? という顔をしながら、汗がいつしか大汗になってしまっている志保。 「そこでの琴音ちゃんへの素行がなんとなくわかるぜ…」 「で、でもねえ! 最近は姫川さんの方が人気があって、かえって私が苛められているのよ!」 「元々てめえは無いだろ?」 「ひ、浩之ちゃん…」 汗に加え、涙まで出てきた志保に、フォローする人は誰もいなかった。合掌。 ………… 「松原さん、な、る、べ、く、ぶつけないで、お願い〜っ…」 今にも泣きそうな表情に加え、消えゆくような声で訴える志保。いつもなら嘘泣きだが、今は大マジである。ここまで敵に回している以上、あまり会話をしたことがない彼女にお願いするしかないのである。 「は、はい…、わかりました…」 と、その言葉と顔に気圧されるように応える葵。 ――いかん! そう思った浩之は素早く口を挟む。 「葵ちゃん! 志保の言うことなんか聞くな!」 「えっ?」 「ヒロ! 余計なこと言わないで! ね、松原さん! お願いぃぃっ…」 さらに目に涙をためながら言う志保。 「えっ? えっ??」 (いかん…葵ちゃん、陥落寸前だ…。このままじゃ手を抜くぞ…) そう考えるや、葵ちゃんの両肩にぽん、と手を乗せる。 「えっ? 先輩…?」 「葵ちゃん…、相手に対し手を抜くってことはどんなに失礼なことか、葵ちゃんにならわかるはずだ…。もし自分が相手に手を抜かれたらどうする? とても悲しいだろ? 自分の力を全て出し切って、相手の全力を上回るからこそ、勝利の意味があると思わないか? オレはすべてにおいて全力を持って頑張る葵ちゃんだからこそ、応援してきたんだ…。やるからには全力を尽くす、それが葵ちゃんだとオレは信じている!」 「は、はいっ!」 葵の目の輝きが違ってきた。そうこれは…あの坂下戦で見せた『全力を尽くす』目だ。 「よっし! 葵ちゃん! オレと一緒に頑張ろうぜ!」 「はい! 頑張ります!!」 「そ、そんなあ…………松原さぁん……」 「志保…」 あかりも、次第に煤けていく志保の背中に同情の念が起きているが、もはや止めるすべが彼女にもなかった。 ………… 「…………」 「芹香先輩っ。今日はわざわざ来てくれてありがとな。ま、楽しんで行ってよ」 「…………」 「え、今日は私以外にもいっぱい来て下さいましたって? どこに?」 すっ、とあらぬ方向を指さす。もちろんその方向には誰も見あたらない。 「ふーん、そうなんだ」 しかし、その意味を十二分に承知している浩之は、平然として言ってのけた。 「…………」 「うん、じゃあ、ちゃんと用意するよ。どこに置けばいいかな?」 「…………」 「じゃあ、こんなもんで…、どうぞ皆さんお使いになって下さい、ってね」 ばばばっ! と豆が空中に消えていく。 その様子を、志保は、まるで毒電波に犯されたような、うつろだけでは表現できない目で見つめていた。 彼女が考えていることはたった一言。 『もうどうにでもなれ』 ………… 「まさかお前まで来るとはなあ〜」 「何よ、いちゃ悪い?」 「そこまで言ってねーだろが、ったくよー……、お嬢様は暇なのか?」 「だって姉さんが嬉しそうにしながら出かけようとしてるからさ、どこいくの〜、なんていったら、顔をぽっ、と赤らめちゃってさあ」 先輩の真似をしているのだろう、目を少しゆるめて、ぼおっとした顔をして話している。 「『浩之さんのところです…ご自宅に招待していただいたので…』」 声まで似せようとしている。さすがに姉妹だけあってそっくりだ。声優も同じだしね。 「あら〜家まで行くなんて、姉さん積極的ねえ、これから…するの? って聞いちゃったわ。そしたら、うつむいて『ええ』、なんて言うのよ! もう私、心臓がドキドキしたわよ! そしたらこれだって言うんだもんねえ…、がっかり」 「…お前は何を期待してたんだよ…」 「あら? わかってるくせに」 「………で?」 「それなら私も行こうかな、って」 「やっぱり暇なんじゃねーか?」 「あら、失礼ね…って正直言っちゃうと今日はそうなのよね〜。でも、パーティーとかがないとみんなとそんなに変わらないと思うわよ」 「しっかし、あのじーさんがついてて、よく許したな」 「実はぜーんぜん許可もらわないで来たのよね。友達が何人いようが、男の家に行くことは許されることじゃないの。今日は姉さん特製の睡眠薬を使ってみんなを眠らせちゃって出て来ちゃったわけ」 「へぇ〜先輩も大胆なことやってくれるな」 「それほど、浩之に会いたい気持ちが強いんでしょうね……こら、顔がゆるんでるわよ」 「……悪かったな」 ―――― 一方そのころの来栖川邸 ―――― 「はっ!? ……何としたこと……こんな廊下でいきなり眠りこけてしまうとは…、長瀬源四郎、一生の不覚……ぬっ!?」 周りを見ると、来栖川が誇る屈強のボディーガート達がそこかしこに倒れている。 「こ、これはどうしたことか……はっ!?」 どどどどどどどどどどどどど、という効果音しか考えられない走りで、一直線に芹香の部屋へ向かう。 はたして、その部屋のドアには張り紙があった。 『皆様へ。家を出ます。ご迷惑をおかけして申し訳ありま……』 「ま、まさか…家出!? なんとしたことだ…大旦那様に顔向けできぬ…」 紙を今にも破りそうになりながら、プルプルと震えだした。……セバス、まさか、高血圧で頭の血管が切れたのではあるまいな? 「長瀬様! 綾香様のお部屋にこのような張り紙が!」 『姉さんと一緒に行くからあとよろしくね☆ あやか♪』 この文を見るや、ふっ、と口元が微妙に笑ったかと思うと、すっと懐から短刀を持ち出した。 「……もはやこれまでじゃ……。こうなれば、腹を切って大旦那様に詫びねば…」 「うわっ! 長瀬様! お止め下さい!!」 「止めるでない…もはや儂がとるべき道は一つしかないのじゃ…芹香様…綾香様…どうぞご無事で…」 「目がイッてる…うわあっ! 誰か! 長瀬様を止めるのを手伝ってくれえ!!」 ちなみに芹香の全文を紹介すると、 『皆様へ。家を出ます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。9時半には帰宅いたします。 芹香』 こんなお約束な文章を読めぬとは……ぢぢい、死に急ぎすぎかもしれないぞ。 ………… 「さって、それじゃ始めるか、そんじゃ、志保、これかぶれ。お約束だ」 そういって鬼の面を手渡す。 「……これいらないわよ、逃げるときの邪魔になりそうだし…」 「へへっ、いらないんだな…、ま、元々鬼みてーな顔をしてるけどな」 「……そうね」 「……お前なあ……もうちょっと楽しくいけよ」 「……そうね」 「……ヱ○ビー食品の駅伝チームの監督は?」 「……そうね」 「お前そりゃ旭化○の方だろ?」 「……そうね」 「……………」 「……そうね」 「なんにも言っていないんだけどな」 「……そうね」 「同じネタも三度まで、ってサッキー(※4)もいってなかったか?」 「……そうね」 「……それじゃ始めていいか? 時間は15分な?」 本当は20分だったが、あまりに志保が沈んでいるので少し短くした。 「……そうね」 「5…4…3…2…1…スタートっ!!」 「ふんっ!!」 「ごふっ!?」 スタートと同時に志保の目がくわっと見開き、浩之の懐に飛び込み、容赦ない双掌衝を入れる! カウンター判定もつき、吹っ飛んだ後ごろごろと転がり、壁に背中からモロに直撃する浩之。突然の出来事に、ほとんど誰も何がおこったかわからないうちに猛然と走って逃げ出す志保。 「お〜っほっほっほ! 15分くらい逃げ切ってやるわぁ!」 高笑いのおまけ付だ。 「長岡さんも役者やなあ…」 「志保…本気で泣いていたのかと思った…」 つーか本気で泣いていたのだが、志保は意地のみで跳ね退けてやったのだ。偉いと思う。 が。 「甘いわ長岡さん!」 「長岡先輩! 全力でいかせてもらいます!」 志保の動きを察知し、その攻撃を見抜いた葵と綾香がぐわっ! と豆を掴み、全力で志保に向かって投げつける! その豆は弾丸のごとく志保の胸あたりにまっすぐ向かう。 が。 「その正確すぎるところが命取りよっ!!」 ぱっと雑誌を掴み、雑誌の盾(防御力:+0.01、但し豆には効果大)によりほとんど跳ね返された。 「うっ…」 志保がふ、雑誌を見ると、豆の跡がかなりくっきりと残っている。はっきりいって顔面に当たると危険だ。これにはちょっと志保もビビったが、躊躇している暇はないことを察知した彼女は、 「はははっ! 悔しかったらぶつけてみたまえ君たち!」 と言うや、あっという間にトンズラした。 「やるわね、長岡さん…やりがいがあるわ…」 「長岡先輩、わたしも全力で行きます!」 二人もその後を追いかけた。でも家の中なので歩いて移動。やっぱり真面目。 …………… 「マルチちゃん、のんびり行こうか?」 「でも、志保さんにぶつけないと、浩之さんの厄が払えないですよ?」 「うーん、でも、なんだかぶつけるのは悪いかなって…」 「じゃあ、あかりさんは浩之さんに悪いことがあってもいいんですか? ……ひどいですぅ……」 非難と憐れみの目であかりを見つめるマルチ。あまりに純粋な目に罪悪感さらに倍、その倍率たるや井○美幸までとは言わないが篠○教授並(※5)に膨れ上がる。 「う…そうじゃないの、マルチちゃん……私だって浩之ちゃんの悪いものはなくしたいわ…たかっている『悪い虫』とかね……くす……はっ!? で、でもね、志保だってぶつけられて痛いんじゃないかなあって…それに掃除するの私だし…」 「あかりさん、浩之さんにたかる『わるいむし』ってなんですか?」 「と、と、と、とりあえず、志保探しにいこ?」 「あ、そうですね、志保さんにいっぱいぶつけて、浩之さんの厄を払いましょう! そして『わるいむし』も払えるといいですね!」 「マルチちゃん…そこはあまり強調しなくていいよ…」 ………… 「では、来栖川先輩…行きましょう」 こく。 「さっそくですが…今長岡さんはどちらにいらっしゃるんですか?」 「…………」 「え? 私にもわかりませんって? ですから、先輩のお友達に聞けば…」 「…………」 「え? 頻繁に移動しているからお友達もわからないですか…」 「…………」 「え? でも今は、門の外には出ていないけど、家の中にもいないようですって? では…」 「…………」 「そうですね…では、移動しましょう」 琴音の目がキュピーンと光り、口元がちょっとだけにやりと笑ったのは、たぶん気のせい……? 「……違いますよ」 ……さいですか。 ………… 「さて、レミィ…そろそろ行こか?」 「フフ……エモノ……エモノはどこ?」 「……さっき逃げてったやないか」 「フフ、逃げまどうエモノをハントするのは…最高ネ…」 「……いつもと全然目が違うねんな……」 その時である。 ばっ、と志保がある秘策を持って部屋まで戻ってきた。それは…。 「あ、ウォーターバードっ!!」 と叫び、智子を指さしたのである!! 「え? 何? 何? 何やの?」 当の智子はなんのことかわからなかったが、ここまで読んで下さっている読者の皆さんはおわかりでしょう…。 とりあえず、智子の無事を祈って……。合掌。 ………… 「あたた…、くそっ! 志保の野郎……、同情したオレが馬鹿だったぜ……。こうなりゃ、ぶつけてぶつけてぶつけまくってやる!!」 浩之の闘争心に火がついた。おお、炎が見えるようだ。 「じゃあ、本気でいこうか、浩之」 待ってましたといわんばかりの雅史。おお、彼にも炎が見えるが? なんだか漆黒の炎だぞ? ベノンで呼び出せる呪文の炎に酷似している(※6)。彼の前世は男にゃ悪魔で女は一発の魔法使いだったのではないだろうか? 「おう! いくぜ!!」 「うん、やっと志保に報復出来る…」 「? なんか言ったか?」 「ううん。それじゃ、志保をとりあえず捜そうか?」 「ああ、志保の行動パターンは読める…おそらく押入なんかに隠れることは出来ない、ずっと待つのは性に合わないからな……遠くにも逃げないだろう……オレ達をからかえなくなるからな……そして、なかなか追い込まれないように、かつ、見つかっても逃げやすいのは……」 二人して、うん、と頷くと、猛然と走り出した。 彼らの行き着く先は? ………… ぽりぽりぽりぽり…。 「ん?」 隠れて結局豆喰いしかしていない理緒ちゃんだった…。 すでに扱いまでビンボー…。(すまん…:by作者) ………… 「はぁ、はぁ……、あの二人を撒くのは大変だわ…何で歩くのがあんなに速いのかしら?」 「見つけましたよ…長岡さん……」 身体全身に寒気を覚えるような、それでいて聞き覚えのある声。 「!! ひ、姫川さん!? そして来栖川先輩!?」 「…………」 「……なるほど……庭ならば逃げやすいですからね…でも…」 今まで手に持っていた升から豆がふわり……と舞い上がり始める。 「逃げられないように……攻撃させてもらいます……」 「ちょ、ちょっと待って! 超能力は反則よ!!」 「……私、全力を持って頑張る、って最初に言いました……あと12分……言っておきますが、戸愚呂弟の空気指弾(※7)なんかより私の豆の方が速いですよ……威力はありませんけどね……では……」 「ちょ、ちょっとまって!! なんでそんなマニアックなことを…」 「……待ちません、いけっ!」 ふわっ、と大量の豆が動いたかと思うと、志保に向かって文字通り四方八方の攻撃を仕掛ける! 防ぐ手も見つからず…、志保、第一の修羅場。合掌。 「ぎょえええええええええええええええええっ!!」 ――――2分経過。 「……あっ、弾切れ……」 あんなに山盛りにしていた豆が、もう空っぽだ。もちろん豆は全弾命中。だが… 「…………うぅっ……ちょっと効いたわ……でも……甘いっ!! こんなスピードだけの攻撃は全然甘いわ!! 山陽堂のワッフル(※8)なんかより全然あっまーいっ!!」 「!!」 「こんなのだったら、某会誌コーナーで『教えて、琴音ちゃん!』と書かれる方がよっぽど……」 ……あ、別の意味で泣き出した……。 「…………」 なでなで。 「え?」 なでなで。 「あ、あの、その、先輩……?」 なでなで。 「あ、でも……なんでだろう……、すごく気持ちが晴れやかになっていく……」 なでなで。 ……なんだかんだで2分経過。 「…………」 「うん……ありがとう先輩……私、頑張ります!」 「…………」 「ええ、終わってからですね、ありがとうございました」 これで志保も、作者と同じ「なでなでマジック」のと・り・こ♪(なんだそれ?) ………… 「さって、こうしちゃいられないわね…」 「へへへ…見つけたぜ、志保……」 「こ、このダミ声は…ヒロ!!」 「探したわ……長岡さん……」 「!! 来栖川さん!? なんであなた達二人なの!?」 浩之と綾香が互いに顔を向き合うと、うん、と頷きあう。 「なんだかんだと聞かれたら!」 「答えてあげるが世の情け!」 「世界の破壊を防ぐため!」 「世界の平和を守るため!」 「愛と真実の善を貫く!」 「ラブリーチャーミーな正義役!」 「綾香!」 「浩之!」 「宇宙を駆け抜けるエクストリームの二人には!」 「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」 「…………って、あれ?」 「ああっ!? 志保の野郎……、逃げやがった!! 正義の味方がきめている間は、悪は動けねえ鉄則を破るとは……許さねえ!!」 すたこらさっさ〜(死語)(※9) 「ふん、おおかた私に、にゃ〜んてな、って言わせる予定だったんでしょうけどそうはいかないわっ!」 ……作者がいうのも何だけど、一体お前ら何者? 「待っていました、長岡先輩……」 「!! 松原さん!?」 「志保……そろそろ年貢の納め時だよ……」 「ま、雅史!?」 「長岡先輩……勝負です!!」 「言っておくけど、僕達は浩之のようなことはしないよ。真面目だからね…」 「ま、真面目って、普通自分で言う?!」 「行きますっ!」 「志保…今こそ積年の恨みを……」 真剣な顔で豆を掴む葵と、にいっと見るからに嫌〜な笑顔を見せる雅史。 「ス、ストッ……ぎぇええええええええええええええっ!!」 志保、2度目の修羅場……合掌。 ――2分経過。 「はあっ、はあっ、はあっ……」 「あー…………とんでもなくすっきりした……」 豆を使い切り、二人とも全力を尽くしたとみえて、とてもさわやかな顔をしている。特に雅史は飛び抜けて最高の笑顔だ。こんなのを見たら、雅史ファンならずとも、たとえそのケがなくてもふらふらっといくかもしれない(をひ) 「ぐうっ……さすがに二人とも運動部……だけどね……」 「あー、その先は言わなくていいぞ、志保」 「!! ヒロに来栖川さん!?」 「そうよ、長岡さん……よくも逃げてくれたわね……」 「…………マジ目ねえ……二人とも……ははは……」 志保にしては珍しく、乾燥警報が出そうなほどの笑い。 「行くぜっ! 存分に喰らいなっ!!」 「全力で当ててみせるわ!! かわして見なさいっ!!」 「にゃ、にゃ〜んてな…ぎゃあああああああああああああああああっ!!」 志保、続けざまに3度目の修羅場……。 ――なんだかんだで2分経過。 「ちぃっ!! 弾切れか……」 「残念ね……これからだっていうのに……」 「………………」 返事がない。ただの屍のようだ。(お約束) 「もう戻るしかねえな……」 「そうねえ……」 「おう、雅史、葵ちゃん、とりあえず居間に戻るぜ」 「う、うん…」 「は、はい!」 この人たちには一生逆らえないことを確認せざるを得ない二人だった……。 ――さらに2分経過。 「あっ! 志保さんですぅ!」 「………どうしたの志保!?」 「待って下さいあかりさん!! えいっ!!」 「なに? マルチちゃん? あっ……」 びびびびびっ。 「やりましたぁ!! これで浩之さんの厄を払えました!!」 純粋で無垢な心の持ち主が死人にむち打つ。 しかし実行したのがマルチで相手が志保ならば、世間一般の方は許してしまうと思う(いいのか!?)。 「志保! ほら! 起きて!!」 平手で軽く志保の頬を叩く。 「…………」 やはり、返事がない。 「マルチちゃん! お水持ってきて!!」 「は、はい!」 「…………なにしてんの?」 「ですからお水を……」 「それじゃなくて、ちゃんとしたお水……」 「100%近い純水なのですけど……」 「……ちゃんと、水道から、バケツで、お水を持ってきて」 「あかりさん、こわいですぅ…」 ――2分経過。 「せぇの……」 ばしゃあっ!! 「……んっ? うぅ……ん?」 「志保!」 「ま、豆えっ! 豆は嫌あ!!」 志保は電波に冒されたさおりんのように豆におびえる。本人は真剣なんだけど、なんだか怯える対象がマヌケ。 「志保……大丈夫。もう終わったよ……」 「え……」 「お疲れさま、志保……無事でよかった……」 「あかり……」 「じゃ、居間に戻ろ?」 「うん……」 ………… 「ん? なんだか騒がしいね……」 「本当……どうかしたのかしら?」 マルチがあたふたと何をするでもなくうろうろしている。 「マルチちゃん、どうしたの?」 「あ、あかりさん! 志保さん! 委員長さんが!」 ちなみに、委員長さん、とは、智子のことを浩之が委員長と言っているからそう言うのだ。 二人で顔を見合わせ、とりあえず居間に向かう。はたして、そこには大量の豆と、右往左往する人々で異様な雰囲気を醸し出していた。。 その中心には…うっ……委員長ファンには絶対見せられない状態だ……豆のめりこみ具合とか…。 「委員長!! しっかりしろっ!!」 「保科さん!! 目を覚まして!! ほらっ!!」 ゆさゆさと左右に揺さぶる。 「こら!! 豆食べてないで水持ってきなさい!! 水!!」 「う、うん!!」 「いや、風呂場にバケツ持ってきてくれ!! 雅史!! 足の方持て!!」 「うん!!」 「ド、ドウシテこんな事に!?」 「…………」 「はい……私が帰ってきたときには、宮内さんがなぜか保科さんに豆をぶつけていた、だそうです」 「エエッ!? 全然覚えがないヨ??」 「……一応、私も見ています……豪快にぶつけていましたよ」 「保科先輩! しっかりして下さい!」 ……前言撤回。 今日ホントに運がなかったのは、保科智子だったようだ。 しかし、である。 智子が心密かに、最後においしいとこ持ってけるかな? と狙ってしまい、レミィの攻撃を甘んじてうけていたことは、国家レベルの秘密事項であろう。 ――ばっしゃあっ!! 「だめだ! 目が覚めねえ!!」 「浩之、キスしてみれば? 白雪姫みたいに、目が覚めるかも……」 「浩之ちゃん、ダメえっ!!」 ……おまえら、問題ずれてきてないか? 「…………」 心でしか泣けない委員長に、今日併せて5度目の、合掌……。 ――――あとがき―――― 2月のイベントといえば節分!!(あれ?) ということで、SS書いてみました。 うーん…長いぃ…。ギャグ物って難しいですね。しかも、結構マニアックなネタを使ってしまった。 おまけに、オチ弱いし、お約束Onlyだし…。ギャグが得意な方がうらやましいです。 でも、オレの全力を持って書きました! これだけは真実! 一ヶ所でも笑っていただければ幸せ! 出来れば、感想(否定的な意見も当然OK!)を送って下さい!! さすれば、オレも少しは成長できるかもしれないので(^▽^;)。 ―――― 注釈 ―――― (※1)PS版「To Heart」長岡志保役の声優。って、注釈付ける必要もないと思うけど、一応。 (※2)荒木飛呂彦著「ジョジョの奇妙な冒険」の第三部主人公、空条承太郎のスタンド。能力は皆さんご存じの通り。 (※3)PS版「To Heart」来栖川芹香・綾香役の声優。って、また注釈付けちゃったけど一応。 (※4)ToHeart志保、レミィ、琴音、理緒シナリオ担当青紫氏のこと。常識? (※5)大橋巨○が司会していた番組「クイズ○ービー」の解答者。彼らはなぜか成績が低く、オッズも大きかった。ちなみにはらた○ら、竹○景子は信じられないほど成績がよかったため、オッズが1(つまり掛けて正解しても同じ点数が戻ってくるだけ)ということもあった。 (※6)ものすごく限定ネタで恐縮なので。萩原一至著「バスタード」の主人公、ダークシュナイダーのオリジナルスペルです。わかった人、いるかな? え? 常識? さいですか…。 (※7)富樫義博著「幽遊白書」。以上。(をひ) (※8)茜も大好き激甘ワッフル! ってこのネタ……やばい? (※9)死語と志保をひっかけようとしたがなにも思いつかなかった、ってのは恥の上塗り?(爆) |